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「座らずに譲ろう」通勤電車で白髪の男性に席を譲ろうと思った。だが、若い男性が気付かずに座ってしまった時の葛藤

横入りで座った若者にモヤモヤした朝
都心への通勤で乗り換える路線は、朝のラッシュが終わりかけた時間帯でも座席が埋まっていることが多い。
その日もドア付近に立って吊り革を握りながら、スマートフォンを閉まってぼんやりと車内を眺めていた。
次の駅でドアが開いたとき、隣に白髪の男性が立っているのに気がついた。
杖こそないが、足元がやや頼りなく見える。
重そうな鞄を片手に持ち、体のバランスを取るようにわずかに揺れていた。
座席に目をやると、窓側に一人分の空きができていた。
(座らずに譲ろう)
そう思い、少し体を動かした瞬間だった。
斜め後ろに立っていた若い男性がすっと身を滑らせ、何も言わずにその席に収まった。
視線はずっとスマートフォンに向いたままで、白髪の男性がすぐそこに立っていることなど、目に入っていないかのようだった。
胸の奥にじわりとした違和感が広がった。
「気づかなかったのか、それとも見えていて座ったのか」
答えは出ないまま、白髪の男性は無言でつり革に手を伸ばした。
その横顔に怒りも落胆もなく、ただ静かに前を向いていた。それがよけいに引っかかった。
その後、別の駅に停まった時に白髪の男性は座ることはできた。
静かに立ち上がった背中
数十分後、何個か先の停車駅でドアが開いた。
乗り込んできたのは、顔色の悪い中年の女性だった。額に手を当てながら、壁にもたれかかるようにして立っている。体が揺れるたびに周囲の人の肩に触れそうになっていたが、誰も気にとめていなかった。
スマートフォンの画面と床ばかりを見ている人たちの中で、誰も動こうとしなかった。
そのとき、白髪の男性が音もなく席を立った。
「どうぞ」
短い一言だった。特別な演出も、周囲へのアピールもない。
ただ当然のことをするように、静かに体を起こして場所を空けた。女性は小さく頭を下げながら腰を下ろし、ほっとしたように目を閉じた。
先ほど横入りして座った若者は、白髪の男性がすぐ近くに立ち直すのを見て、ようやく顔を上げた。
何か言いかけるように口元が動いたが、言葉は出なかった。耳まで赤くなっているのが、少し離れた場所からでもわかった。
次の駅が近づく頃、若者は荷物を抱えて席を立ち、そそくさと別の車両へ移っていった。
年齢とか、体の具合とか、そういうものとは別のところに、人の本質はある。
そんなことを、朝の電車がひとつの駅を過ぎるあいだに考えた。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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