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「あ、ちがう階だ」子供が誤ってエレベーターのボタンを押した。だが、家族が思わず固まってしまった光景とは

卒園式の帰り、約束したごほうび
三月のよく晴れた日、末っ子の卒園式が終わった。
五十を過ぎてから授かった子で、この日をどれだけ待ったかしれない。
式のあと、妻が娘の頭をなでながら言った。
「よく頑張ったね。約束通り、新しいお洋服を買いに行こうか」
娘は、その場で飛び跳ねて喜んだ。
うちは決して裕福ではないから、妻はしっかり者で、こういうときも予算をきちんと決める。
「約束の服、予算は3千円ね」
「うん、わかった!」
娘は指を折りながら、真剣な顔で考え込んでいる。「3千円で、どんなお洋服が買えるかな」と、期待に胸をふくらませていた。
その横顔がかわいくて、私と妻は、思わず顔を見合わせて笑った。
その足で、駅前の商業施設へ向かった。娘は車の中でも、どんな服にしようかとずっとはしゃいでいた。
この歳になって親になれた喜びを、私はかみしめていた。ありふれた、幸せな休日になるはずだった。
エレベーターの扉が開いた瞬間
子ども服の売り場は、上の階にある。エレベーターに乗り込むと、娘が背伸びをしてボタンに手を伸ばした。
「わたしが押す!」
ところが小さな指が押したのは、目当ての階ではなく、少し下の階のボタンだった。
「あ、ちがう階だ」
妻は苦笑いで、娘の頭を軽くつついた。箱はそのまま上昇し、間違って押された階で、ゆっくりと扉を開けた。
その先に立っていた二人を見て、私は思わず固まった。
足がすくんで、動けなかった。
妻の親しいママ友と、娘がお世話になった保育園の先生が、並んで立っていたのだ。
二人とも、家族ぐるみで顔を合わせてきた相手だった。
この階にあるのは、宿泊もできるホテルのフロントだけ。買い物や食事に来る場所ではない。
二人は私たちに気づくと、はっと表情を強張らせ、気まずそうに目線をそらした。誰も一言も発しないまま、扉は静かに閉じ、二人はさらに上の階へと運ばれていった。
重い沈黙を破ったのは、娘の無邪気な声だった。
「ねえ、どうして先生と、お友だちのママが一緒にいるの?」
私と妻は、とっさに顔を見合わせた。
「…さあ。ばったり会っただけじゃないかな」
「そ、そうよ。きっと、お買い物の途中よ」
しどろもどろの私たちに、娘は不思議そうに首をかしげるばかりだった。
結局その日、私も妻も、あの二人のことを口に出すことはなかった。
見なかったことにするのが、大人の分別なのかもしれない。それでも娘の服を選ぶあいだも、私の頭からはあの光景が離れなかった。
あの気まずそうな目が、割り切れない何かとなって、今も胸の奥に残り続けている。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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