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「すみません、それは私が担当しました」上司の前で先輩の横取りを静かに訂正した瞬間、空気が変わった

「ちょっとお願い」が積み重なっていった
以前勤めていた会社での話だ。
入社してしばらく経った頃、営業部の先輩から「ちょっとお願い」と頼まれることが増えてきた。
最初はちょっとした資料の修正や、簡単なデータ整理だった。
新人のうちは先輩の仕事を手伝うものだと思っていたし、断る理由もなかった。
でも次第に、依頼の中身が変わってきた。先輩の担当案件の提案書を丸ごと作ったり、取引先向けの資料を一から仕上げたり。それなのに翌朝の会議では、先輩が「私が作った資料です」と平然と報告していた。
(これって、おかしくないか?)
違和感は最初からあった。でも、指摘できる立場でもなかった。「まだ新人だから」「先輩なりの理由があるのかもしれない」と自分に言い聞かせながら、気づけばその量は月を追うごとに増えていった。
先輩は仕事の段取り自体は器用だった。上司に対する言葉の使い方もうまかった。
私が時間をかけて作り上げた資料も、先輩の口から説明されれば先輩の成果として会議の場に溶け込んでいった。悔しいというより、ただ虚しかった。
このままでいいのか、ずっと考えていた。でも何をどう言えば角を立てずに伝えられるのか、入社して日の浅い私には見当がつかなかった。言い方を間違えたら、職場での立ち位置が悪くなるだけかもしれない。そんな不安が、口をふさいでいた。
「すみません、それは私が担当しました」
転機は、ある月の終わりに訪れた。直属の課長が、私と先輩がいるその場で、ふとこちらに向かって聞いたのだ。
「この資料、誰が作ったの?」
先輩が口を開こうとした。そのわずかな間に、私は静かに言葉を出した。
「すみません、それは私が担当しました」
課長は少し驚いた表情で私を見た後、「そうだったの?丁寧に作られていて助かったよ」と言った。
先輩は黙ったままだった。
責めたわけでも、声を荒げたわけでもない。
ただ、事実を事実として伝えただけだった。それでも、その場の空気は確かに変わった。
課長がその場を離れた後、先輩は何も言わなかった。
私も特に何かを追い打ちにするつもりはなかった。ただ、言うべきことを言えた、それだけで十分だった。
その日を境に、先輩から「ちょっとお願い」と言われることはなくなった。何も変わっていないように見える日常の中で、私の仕事量は静かに本来の量に戻っていった。
理由を先輩から聞かされることはなかったが、それで十分だった。言葉ひとつで状況が変わるということを、あの瞬間に初めて実感した。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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