Share
「あなた、最近ぼーっとしてるね」妻の何気ない一言で気づいた50代の私→自分軸を手放してきた人生を振り返った結果

休日の朝食で出た一言
土曜の朝のことだった。いつもの席で味噌汁の湯気を眺めながら、ぼんやりと窓の外の街路樹を見ていた。葉の揺れ方を目で追っているようで、実際は何も見ていない。
向かいで新聞を畳んだ妻が、こちらを見て小さく首を傾げた。
「あなた、最近ぼーっとしてるね」
責めるでも心配するでもない、軽い口調だった。けれどその一言が、胸の底に静かに沈んでいった。
言われてみれば、そうだ。出社しても帰宅しても、頭のどこかが薄いガラス越しに動いているような感覚が続いていた。会議で頷き、帰り道で歩き、テレビの前で笑う。一通りの動作は繋がっているのに、自分が中にいない。役を演じている俳優が、自分の演技を客席から見ているような心地だった。
流れに乗ってきた半生
結婚して二十年以上が経つ。出会いは仕事関係の知人の紹介で、断る理由が見つからないまま付き合いが始まり、節目で誰かに背中を押される形で式を挙げた。
家のローン、子どもの進路、休日の過ごし方。どれも反対する理由はなかった。けれど積極的に選び取った記憶も、思い返すと意外なほど少ない。
(俺はこの暮らしを、自分で選んだんだったか)
湯のみを置く手が、ほんの一瞬だけ止まった。妻に対して不満があるわけではない。良い妻だ。それは断言できる。子育ても支え合ってきたし、大きな喧嘩もなく今日まで来た。
ただ、その「良い」を選んだのが本当に自分の意志だったのか、急に自信がなくなった。「断らなかった」と「選んだ」は、同じようでまるで違う。
名前のつけられない違和感
仕事も同じだった。配属、転勤、昇進。流れに身を任せ、断らない男として周囲に重宝され、気づけば五十路に入っていた。
身の回りのものを見渡すと、欲しくて買ったというより、必要に応じて揃えたものばかりが並んでいる。趣味と呼べるものすら、気がつくと誰かに勧められて続けてきたものだった。スマホの中の写真フォルダにも、自分が本当に撮りたかった一枚が見当たらない。
裏切りも事件もない。穏やかで悪くない人生。それでも胸の真ん中に、輪郭の薄い空洞のようなものがある。
妻に何を答えればいいのかも分からず、味噌汁を一口すすって笑ってごまかした。本当の答えは、まだ自分の中にも見つかっていない。「ぼーっとしてる」と言われたその瞬間が、一番自分と向き合っている時間だったのかもしれないと、ぼんやり思った。今さら何かを変えるのは怖い。けれど、変えないまま六十、七十と進んでいくのも、別の意味で怖かった。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
ほかの小説も読む
登場人物から探す
テーマ・シチュエーションから探す
結末から探す
最も人気の短編小説
もっと見る >スカッとする短編小説
もっと見る >モヤモヤ短編小説
もっと見る >ゾッとする短編小説
もっと見る >LINEの短編小説
もっと見る >実体験をもとにした短編小説
もっと見る >恋愛トラブル
もっと見る >ハラスメント
もっと見る >金銭トラブル
もっと見る >浮気・不倫
もっと見る >迷惑
もっと見る >仕事のトラブル
もっと見る >非常識
もっと見る >LINE誤爆
もっと見る >思わず気持ちが晴れた「スカッと」
思い出しても背筋が凍る「ゾッと」
その感情を、物語にしませんか。
GLAMでは、あなたのリアルな体験エピソードを
お待ちしています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
Feature
特集記事

