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私の企画を横取りし昇進した同僚。役員会議で“決定的証拠”を突きつけ彼の出世を潰した[短編小説]

 

「この新規事業企画、必ず成功させる」

入社4年目。私が半年以上もの歳月をかけて、寝る間も惜しんで練り上げた企画書。それは、会社の未来を左右するかもしれないと自負するほど、私の情熱とアイデアの全てでした。

このプロジェクトの監督役は、先輩の武田さん。私は彼を信頼し、チームとして成功を掴むため、進捗やデータをこまめに共有していました。彼も「いいじゃないか、カオリ。この調子でいこう」と応援してくれている。そう、信じていました。あの、裏切りのプレゼンまでは。

「お前はサポートに徹しろ」奪われた手柄

部門長やマネージャー陣が揃う、最終プレゼンの日。発表者であるはずの私に、武田さんは会議室の前でこう告げました。

「この手のプレゼンは、ベテランの俺がやった方が説得力がある。お前はサポートに徹してくれ」

有無を言わせぬその態度に、私は逆らうことができませんでした。そして、会議室の隅で、私は自分の分身であるはずの企画が、あたかも武田さん一人の手柄であるかのように語られていくのを、ただ見ていることしかできませんでした。使われているスライドも、データも、殺し文句も、全て私が作ったもの。なのに、私の名前はどこにも出てきません。

プレゼンは大絶賛を浴び、室内は拍手に包まれました。その輪の中心で、得意げに笑う武田さん。私の存在など、誰の記憶にも残っていないようでした。

泥棒が手にした「昇進」という報酬

一週間後、社内イントラネットに掲載された人事に、私は目を疑いました。

 

【昇進のお知らせ】
営業企画部 武田 正人 課長待遇に昇進
(新規事業企画の立案・推進における、多大なる貢献を評価)

 

…冗談でしょう?

私の努力は、彼の出世のための踏み台にされただけ。悔しくて、情けなくて、彼に直接抗議しましたが、返ってきたのは嘲笑だけでした。

「俺が最終的にまとめたんだから、俺の手柄だろう。悔しかったら、お前ももっと上手くやれよ」

その瞬間、私の悲しみは、静かで冷徹な闘志へと変わりました。絶対に、このまま終わらせない。

復讐のための”決定的証拠”集め

感情的に上司に訴えても、新しく昇進した武田さん相手では「言った言わない」の水掛け論になるだけ。私に必要なのは、誰もが沈黙するような、動かぬ証拠。

私は、そこから静かに準備を始めました。

まず、武田さんに企画の草案やデータを送ったメールの履歴を全て印刷。タイムスタンプが、私が作成者であることを雄弁に物語っていました。

次に、社内サーバーに保存されている企画書のファイルのプロパティ画面をスクリーンショット。そこには、私の名前でファイルが作成された日時が、くっきりと記録されていました。

そして、とどめの一撃。私が最終案を武田さんに送る際、「武田さん、最終確認お願いします。この『プロジェクト・ゼニス』という企画名で問題ないでしょうか?」と、私が考案した企画名を添えて送っていました。彼からの返信は「ああ、それでいい」の一言。彼がプレゼンする前に、企画の完成と命名者を認識していたことを示す、完璧な”罠”でした。

最高の舞台で、彼の嘘を暴く

チャンスは、意外なほど早く訪れました。私の企画が高く評価され、武田さんは社長や役員が勢揃いする「役員会議」で、直接プレゼンをすることになったのです。これ以上ない、最高の舞台でした。

会議当日。武田さんは、役員たちの賞賛を浴びながら、自信満々にプレゼンを終えました。質疑応答の時間、サポート役として末席に座っていた私は、静かに手を挙げました。

「武田マネージャー、大変素晴らしいプレゼンテーションでした。一つ、質問よろしいでしょうか」

訝しげな役員たちの視線が突き刺さる中、私は続けました。

「この『プロジェクト・ゼニス』という、大変印象的な企画名は、武田マネージャーが考案されたのでしょうか?」

彼は、一瞬の迷いもなく、誇らしげに言い放ちました。
「ああ、そうだ。私がプロジェクト全体を統括する中で、最もふさわしい名前を考えた」

──かかった。

「左様でございますか。では、私がこの企画名を武田さんにご提案した、こちらのメールは一体何なのでしょうか」

私はその場でPCをプロジェクターに接続し、あの”罠のメール”を役員たちの目の前に大写しにしました。そして、立て続けに、ファイル履歴、草案メールの数々を提示。私がこの企画の真の立案者であることを示す、完璧な証拠を。

彼のキャリアが終わった日

役員会議室は、水を打ったように静まり返りました。役員たちの視線が、スクリーンと、血の気の引いた武田さんの顔とを、何度も往復します。社長の、冷え切った怒りの表情。

その日のうちに、武田さんの昇進は白紙撤回。後日、彼は懲罰委員会にかけられ、地方の関連会社へ事実上の左遷となりました。彼の輝かしい出世街道は、彼自身の嘘によって、完全に断たれたのです。

私は、正式に「プロジェクト・ゼニス」の責任者として任命されました。自分の手で、正義と、そして本来あるべきだったキャリアを取り戻したのです。もう、私の努力を横取りする人間は、どこにもいません。

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