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「YESと言えなかったのは、夢の邪魔だったから」6年付き合った彼からのプロポーズ[短編小説]

「結婚しよう、ユリ」
深夜の静まり返った代官山のバー。グラスの氷が、カランと音を立てる。彼の声は、妙にまっすぐだった。
27歳から6年付き合った、穏やかで誠実な彼。正直、プロポーズされる日は近いとどこかで思っていた。
「…ありがとう。でも、返事は、月曜日にして」
私のその言葉に、彼は少しだけ眉をひそめた。でも、いつものように笑って「ユリらしいな」と言ってくれた。
その週末、私は箱根の一人旅に出た。理由は、プロポーズの返事を“考えるため”だったけど、本当はもう分かっていた。
心の中にひっかかっているのは、「彼の隣に立つ私」じゃなくて、「わたしの人生の主語が彼になること」だった。
私には、まだやりたいことがある。温めていたブランドを今年こそ立ち上げたい。もっと世界を見たい。独立したい。でも、彼と結婚したら、私は「彼の奥さん」になる。それが悪いわけじゃない。でも、なんだか“役を演じる自分”になる気がしてしまった。
月曜日の朝。オフィスビルのガラスに映った自分を見て、私は少し笑った。
「……大丈夫。きっと、ちゃんと選べる」
その夜、私は彼に電話をした。
「ユリ、どうだった?」
「うん……ごめん。やっぱり、今は結婚じゃない」
彼は少しの沈黙のあと、「そうか」と言った。そして、「でも、ユリの選んだ人生なら、きっと最高だな」と続けた。
別れの言葉はなかった。ただ、私たちは、別の人生を歩き出すだけだった。
あの日、彼に“月曜日まで待って”と言ったのは、自分の未来に敬意を持ちたかったから。
大切な人だからこそ、曖昧なまま答えたくなかった。
私は今、自分のブランドを立ち上げて1年目。まだまだ未熟だけど、夢にちゃんと触れている。
そして、たまにあのバーの前を通るたび、そっと思う。
——あの夜、あの答えを選んで、やっぱりよかった。
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