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「化粧濃いよね。すっぴんの方がマシ」と無神経な男友達。→「じゃあお前の無精髭とヨレたシャツもどうにかしろ」と言い返したら撃沈。【短編小説】

「言っていいこと」と「言わなくていいこと」の境界線
「なにその化粧、今日めっちゃ濃くない?すっぴんの方がマシだよ」
その一言で、私は箸を置いた。
言ったのは、大学時代からの男友達・和馬。定食屋での昼食中、唐突に放たれたその言葉に、私の心は一気に氷点下へと突き落とされた。
もともと、和馬は“思ったことをすぐ口にするタイプ”だった。自分では「正直な性格」と思っているらしく、気まずくなると「冗談じゃん」で済ませようとするのが常。
でも今日ばかりは、さすがに我慢できなかった。
今朝は、久々に高校の同級生4人で集まる予定だった。だから気合を入れてメイクも服も整えてきた。普段はナチュラル派の私が、珍しくアイラインを長めに引いたことにすら意味があった。
それを「濃い」「すっぴんの方がマシ」とは。しかも言い方、冗談でもなく本気のトーン。
撃沈のカウントダウン
「へぇ…」私は口角だけを動かしながら、和馬の全身を一瞥した。
ヨレヨレの白シャツ。襟元には謎の黄ばみ。三日剃ってないような無精髭。そして油でテカった前髪を手で何度もかき上げている。
そこで私は、満を持してこう返した。
「じゃあさ、和馬のその無精髭と、クリーニング迷子のシャツもどうにかしなよ。“清潔感のない男よりすっぴんの女”の方がマシって、女子の間ではわりと定説だよ?」
一瞬で、箸を止めたのは和馬だった。
「あ、ごめん…言い過ぎた?」いや、全部返しただけです。
和馬は目をそらして、「…あ、ごめん。そんなつもりじゃなかった」とポツリ。
でも私は、「ううん、私も言い過ぎたかな」とは言わなかった。だって私は、ただ“返した”だけなのだから。
気づいていないかもしれないけど、「女だから何を言っても許される」「冗談で済ませられる」なんて時代は、とっくに終わってる。
その日以降、彼は私の前で黙るようになった
それからというもの、和馬は私の外見に一切言及しなくなった。それどころか、他の女子へのコメントも明らかに慎重に。
撃沈って、恥ずかしさじゃなくて“自分が非常識だった”と気づいた時にくるんだな、と思った。
他人の外見に意見をするなら、自分も“見られている”ということを忘れずに。
そしてもし、誰かの言葉に心がざらついたら――時にはピシッと返してもいい。それが「自分を守る」ということだから。
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