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「生活費は折半だよね?」同棲中の無職の彼。彼の実家に“あるもの”を送りつけ撃退[短編小説]

「拓也となら、きっと素敵な家庭を築ける」
1年前、同棲を始めた頃の私は本気でそう思っていました。2LDKの新しい部屋、二人で選んだお揃いのマグカップ。そして、「生活費はきっちり折半にしようね」という彼、拓也からの頼もしい言葉。私の胸は、幸せな未来への期待でいっぱいでした。
しかし、その期待は3ヶ月も経たないうちに、ため息へと変わっていきました。
消えていく貯金と信頼。彼の「すぐ働く」はいつ?
「今の仕事、俺には合わないんだよね」
そう言って拓也が会社を辞めたのが、全ての始まりでした。最初は「やりたいことが見つかるまで応援するよ」と健気に支えていた私。でも、拓也は来る日も来る日も部屋でゲーム三昧。「転職サイトは見てる」と言いながら、彼のパソコン画面に映るのはいつもオンラインゲームのチャット欄でした。
そして、交際時に固く約束したはずの「生活費の折半」は、いつの間にか忘れ去られていました。家賃8万円、光熱費2万円、食費4万円…気づけば、生活費の全てが私の給料から消えていく日々。
「ねぇ拓也、来月の家賃なんだけど…」 私がおそるおそる切り出すと、彼は決まってこう言うのです。
「ごめん!来週にはバイト決めるから!」
「そんなお金の話ばっかりじゃ、愛も冷めるよ」
逆ギレされたり、話をはぐらかされたり。私の貯金通帳の残高が減っていくのとは裏腹に、彼のゲーム機やヘッドフォンは最新モデルへとアップグレードされていきました。私の心は、焦りと怒りで黒く塗りつぶされていきました。
私が決意した”最終手段”
決定打となったのは、ある週末のこと。私が友人の結婚式で家を空けている間に、彼が私のクレジットカードを使い、5万円もするゲームソフトを買っていたことが発覚したのです。
問い詰めると、「どうせすぐ働くから返すつもりだった」と悪びれもしない様子。
プツン、と私の中で何かが切れました。 もう、話し合いは無意味だ。この関係を終わらせるか、それとも彼を更生させるか。私は後者を選びました。ただし、私一人ではなく、”ある強力な協力者”を巻き込んで。
彼の実家へ送った“あるもの”の正体
拓也の実家は少し裕福で、特にお母様は彼を「たっくん」と呼んで溺愛していました。きっと、息子のこんなだらしない現状は知らないはず…。私は覚悟を決め、”最終手段”に打って出ることにしました。
私が用意した“あるもの”。それは、「この半年の家計を詳細に記録した会計報告書」です。
私が毎月つけていた家計簿アプリのデータを全て印刷。拓也が負担しなかった家賃、光熱費、食費、そして彼が私のカードで買ったゲームソフトの明細。彼が本来負担すべきだった金額、合計約60万円を、赤いマーカーでくっきりと囲みました。
そして、一枚の丁寧な便箋にこう綴りました。
『お義父様、お義母様。いつもお世話になっております。 拓也さんとの将来を真剣に考えておりますが、現在の私たちの生活状況について、一度ご相談させて頂きたく、大変恐縮ながら現状の家計状況をお送りいたしました。』
あくまで「ご相談」というスタンスを崩さず、その書類一式をレターパックに詰め、彼の実家宛に発送しました。
一本の電話で訪れた劇的な結末
その日の夜。リビングでくつろぐ拓也のスマホが、鬼のような勢いで鳴り響きました。画面には「母さん」の文字。青ざめた顔で電話に出た拓也の耳に、私にも聞こえるほどのお母様の怒声が突き刺さります。
「あんた、美咲さん(私の名前)に何てことさせてるの!」
「今すぐ美咲さんに土下座して謝りなさい!」
電話が終わると、彼は顔面蒼白のまま私の前に崩れ落ち、「本当にごめんなさい…」と土下座しました。
翌日、お母様から私に直接謝罪の電話があり、私の口座には立て替え分の全額と「迷惑料」としてプラス10万円が振り込まれていました。
その週末、拓也は実家へと強制送還。同棲生活はあっけなく終わりを告げました。風の噂では、今はお父様の会社で厳しく扱かれながら、社会人としてのイロハを叩き込まれているそうです。
一人に戻った部屋は少し広いけど、私の心は驚くほど晴れやかでした。お金の問題は、時に愛情だけでは解決できません。自分の身を守るために、時には常識から外れた”荒療治”も必要なのだと、私はこの一件で痛いほど学んだのでした。
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