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「また髪の毛が落ちてるぞ」同居している義父が掃除のたびにグチグチ漏らす一言→静かに積もり続けた私の葛藤

きれい好きな義父との同居生活が始まった日
結婚を機に、夫の実家で同居することになった。義母は早くに亡くなり、家には義父と夫、そして新参の私という3人暮らし。
義父は退職後、家のことに精を出している人で、掃除も洗濯も率先してやってくれる。新婚で気を張っていた私にとっては、ありがたいことだった。
「お父さん、今日もありがとうございます」
朝、義父はもう掃除機を片手に廊下を磨き終えていて、家の中はいつもピカピカだった。
けれど義父はとにかく細かい人でもあった。テーブルに指紋がついていればその場で拭き、床の隅にホコリが溜まっていれば綿棒で取る。
そして、何より義父が気にしていたのが、抜け落ちた髪の毛だった。
「また髪の毛が落ちてるぞ」
洗面台で歯を磨いていた朝、リビングから義父の声が飛んできた。声色に怒気はない。けれど、グチグチと続く独り言は、確実に私に向けられていた。
(また、だ)
洗面所の鏡越しに、私は小さく目を伏せた。
小さな積み重ねが越えてしまった、ある夜
その日から、義父の小言は日常になった。リビングの床、ソファの肘掛け、廊下の隅。私の長い髪の毛が一本でも落ちていると、義父は決まってため息をつき、独り言のように文句を口にする。
髪を一つに結んでみた。耳の後ろまできっちり留めてみた。シャンプーのあとは念入りにブラッシングして、抜け毛を風呂場で流してから出てくるようにした。それでも、髪は落ちる。
(私だって、好きで落としてるわけじゃないのに)
そう思っても、口には出せなかった。掃除をしてくれているのは義父だ。文句を言える立場ではない、と自分に言い聞かせる。
夫に話してみたこともある。けれど夫は、「父さん、悪気はないから」と笑って取り合わない。「気にしすぎだよ」と言われてしまえば、それ以上は何も言えなかった。
私は朝起きるたび、まず床に視線を走らせるようになっていた。今日はどこに落ちているだろう。今日は何を言われるだろう。家の中で、息を潜めるように暮らしていた。
ある夜、義父が「お風呂場にも一本あったぞ」とリビングでつぶやいた瞬間、自分でも驚くほど涙が出た。声を上げて泣いたわけじゃない。お皿を洗いながら、ぽろぽろと頬を伝った静かな涙だった。
(もう、ここでは暮らせない)
その夜、私は夫に切り出した。義父を責めたいのではない、ただ自分が壊れる前に距離を置きたいのだと。
夫も最初は驚いていたが、何度かの話し合いの末に、私たちは別居を選んだ。お盆や正月には顔を見せに行く。それでも毎日の場は、分けておきたかった。
あの家を出た朝、私はようやく深呼吸ができた。胸の中に積もり続けていた小さなため息は、今も思い出すたびに静かにうずく。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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