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「派手な衣装で店頭呼び込みお願い」客足の減った店長から告げられた指示→冗談か本気か測りかねた

客足の止まった美容院に流れる重い空気
以前働いていたのは、繁華街から少し外れた場所にある小さな美容院でした。三十代に入って数年、ようやく指名のお客様も増えてきた頃のお話です。
ある時期から、客足がぱたりと止まりました。雨でもないのに、午後の予約が一件も入らない日。閑古鳥という言葉が、本当に頭の上で鳴いている気がしました。
スタッフルームでは、誰もが小さな声でひそひそと不安を口にし始めます。掃除を念入りにしたり、SNSの更新頻度を上げてみたり、できることはみんなで持ち寄って試していました。
そんな張り詰めた空気の中、月初めのミーティングで店長が切り出した一言で、私は一瞬、耳を疑ったのです。
「派手な衣装で店頭呼び込みお願い」
店長は半笑いのような顔をしていました。具体的に挙げられたのは、身体のラインがはっきり出る、人目を引く露出の多い衣装。冗談で言っているのか、本気で言っているのか、その表情からは判別がつきませんでした。
笑い飛ばすには口調が真剣すぎ、真に受けるには笑みが残っている。中途半端な温度のまま、その場の空気だけがゆっくりと冷えていきました。
引き受けないまま胸に残った違和感
場の空気は固まったまま、しばらく動きませんでした。後輩の女性スタイリストはうつむき、ベテランの先輩は目を伏せて、誰も先に口を開こうとはしません。
(これって、笑って流していい話なのかな)
(もし真に受けたら、それはセクハラに近い話なんじゃないか)
頭の中で二つの声がぐるぐると回っていました。客足を取り戻したい気持ちは皆同じです。けれど、女性スタッフだけが目立つ格好で店の前に立つことを集客の手段に挙げる発想そのものに、私はどうしても乗れませんでした。
結局その提案は、誰も「やります」と言わないまま立ち消えのような形になりました。
次のミーティングで触れられることもなく、シフト表に呼び込みの欄が増えるわけでもなく、実行に移されることはなかったのです。表向きには、何も起こらなかった話。
けれど、ミーティングのあとも、休憩室で先輩と目が合うと、お互いに気まずい笑みを返すしかありませんでした。「あの話、なかったことになりましたね」と確かめ合うこともできず、ただ営業時間の終わりを待つだけの日が続きます。
(困ったときに、まず女性スタッフの見た目に頼ろうとする発想自体が、ここの限界なのかもしれない)
その日から、お客様にハサミを入れる手は同じでも、店長の指示を聞く時の気持ちが、少しずつ変わっていきました。あの日のミーティングで止まった空気のことだけは、何年経ってもはっきり思い出せるのです。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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GLAM Lifestyle Editorial
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日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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