「君のため」が口癖のモラハラ夫。私に勇気をくれたのは、ある人からの愛情あふれる手紙だった【短編小説】

夫の言葉が法律だった結婚生活

結婚して五年、夫である慶の言葉は、私の中で絶対的なものでした。

「君は本当にセンスがないな。服は僕が選んだものだけ着てくれ」

「どうしてそんな簡単なこともできないんだ？まったく、使えないな」

毎日のように浴びせられる言葉の刃に、私の心は少しずつすり減っていきました。
私が何か意見をしようものなら、夫は倍以上の言葉で私をねじ伏せ、最後には決まって「君のためを思って言っているんだ」と締めくくるのです。

いつしか私は、夫の顔色をうかがい、息を潜めて生きるのが当たり前になっていました。
自分が何が好きで、何がしたいのか、もう思い出せなくなっていました。

そんなある日、クローゼットの奥から、古びた木箱を見つけました。
それは、十年前に亡くなった祖母のものです。中には、懐かしい写真や小物と一緒に、一通の手紙が入っていました。

私に宛てられた、祖母の優しい文字です。

『愛する莉子へ。あなたの笑顔は、周りのみんなを明るくする宝物です。何があっても、自分を信じて、あなたらしく輝いていなさい。ずっと応援しているよ』

手紙を読んだ瞬間、涙が溢れて止まりませんでした。忘れていた、本来の自分を思い出したのです。
夫と出会う前の、よく笑い、自分の足でしっかりと立っていた「莉子」という自分を。

「私」を取り戻す勇気

その日の夜、帰宅した夫は、いつものように私を値踏みするような目で見ました。

「またそんな暗い顔をして。こっちまで気分が悪くなる」

いつもなら、ここで「ごめんなさい」と謝っていたでしょう。でも、その日は違いました。

「慶さん。私はもう、あなたの言いなりにはなりません」

夫は一瞬、何を言われたのか分からないという顔をしました。

「私の笑顔は、祖母がくれた宝物なんです。あなたなんかに、二度と奪わせたりしません」

私は、震える声でしたが、まっすぐに夫の目を見て言い切りました。
夫の顔から、今まで私を支配してきた「余裕」という名の仮面が剥がれ落ちていくのが分かりました。

あの日、祖母の手紙がくれた小さな勇気が、私の新しい人生の扉を開けてくれたのです。

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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