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「今日は、来てないね」突如来なくなった常連客。数週間振りに見せた姿に、私が言葉を失った瞬間

「今日は、来てないね」突如来なくなった常連客。数週間振りに見せた姿に、私が言葉を失った瞬間
十一時半に鳴る引き戸
商店街の定食屋で、私は昼の時間だけ働いていました。開店は十一時、その三十分後に必ず引き戸が鳴ります。
「こんにちは、いつものね」
年配の男性が、一番奥のカウンター席に腰を下ろします。
注文は焼き魚定食で、ご飯は少なめ、味噌汁は熱め。伝票を書き終える前に、厨房へ声が通ってしまうほどでした。
最初のころは、お冷やを置いて会釈をするだけの間柄です。話しかける勇気もなく、注文を復唱する声だけが行き来していました。
それが半年も続くと、会計のたびに言葉が増えていきました。
「今日もありがとう」
「またお待ちしています」
「いつも笑顔で気持ちがいいね。それだけで足が向くんだよ」
そう言われた日は、午後の洗い物まで軽く感じたものです。
奥の席が空いたまま
気づいたのは、雨の続いた週の半ばでした。十一時半を過ぎても、奥の席が空いたままです。
「今日は、来てないね」
焼き網の前から、店主が顔を上げました。
「お休みかもしれません」
次の日も、その次の日も、引き戸は同じ時刻に鳴りませんでした。
連絡先を知っているわけでもなく、事情に踏み込める立場でもありません。それでも奥の席を拭くたび、手が止まります。
数週間が過ぎたころ、店主が仕込みの切り身を一枚減らしました。理由は聞きませんでした。冷蔵庫の中の並びが変わっただけなのに、厨房が少し広く見えます。
また来られたよ
その日の引き戸は、いつもより小さな音でした。
顔を上げると、少しやせた背中がまっすぐ奥の席へ歩いていきます。
おしぼりを持ったまま、言葉が出てきませんでした。
「入院していてね。ここの焼き魚が食べたいと、それだけ考えていたよ」
「……お帰りなさい」
ようやく声にできたのは、その一言だけです。
厨房では油の跳ねる音が始まっていました。店主は何も聞かず、いつもより厚い切り身を網にのせています。ご飯は少なめ、味噌汁は熱め。
「変わらないな、この味は」
「ありがとうございます」
会計のとき、聞き慣れた言葉が返ってきました。
「今日もありがとう。また来るよ」
「お待ちしています。ずっと」
引き戸が閉まると、店主が網の前で小さく笑いました。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
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