Share
「これ、欲しがってたろ?」彼氏からの誕生日プレゼントは偽ブランド財布だった。→”真贋鑑定書”1枚を叩きつけ、関係に終止符を打った【短編小説】

彼氏からの誕生日プレゼントは偽ブランド財布だった。
「欲しかったんだろ?喜べよ」
25歳の誕生日。
付き合って1年の彼・直哉(なおや)が、得意げに差し出した小さな箱。
「これ、欲しがってたろ?」
リボンも包装紙もなく、白い紙袋に無造作に入れられたその箱。
中には、私が何度も雑誌で「いつかは欲しいな」と口にしていたハイブランドの財布。
「……ありがとう」
嬉しい。はずだった。
でも、どうしてだろう。
見た瞬間、胸の奥が冷えた。
ロゴの位置が微妙にズレていて、ジッパーの金具が妙に軽い音を立てる。
触り慣れたブランド品の“重み”が、そこにはなかった。
「これ、どこで買ったの?」
「え?あー……ネット。安かったんだよなー、逆にラッキーじゃね?」
その言い方で、確信した。
モヤモヤを抑えきれず…
その夜、私は財布を持ってブランド正規店へ。
「すみません、これ、正規品かどうか見てもらえますか?」
店員さんの目が、私の手元をスッと見て、次の瞬間、静かにうなずいた。
「少々お待ちください」
数分後、返された財布と共に差し出されたのは、“真贋鑑定書”。
そこにははっきりとこう記されていた。
「本製品は弊社の商品ではございません」
つまり、偽物だった。
怒りより、冷めた感情
私は怒っていなかった。
むしろ、心のどこかで「やっぱりね」と思っていた。
直哉は、いつも“安く済ませる”ことに全力だった。
食事も、デートも、プレゼントも。
でも問題はお金じゃない。
私が本当に欲しかったのは、私を思って選んでくれる気持ちだった。
「欲しかったんだろ?」なんて言葉で、私の“願い”を“義務”にすり替えた彼。
それに、よりによって偽物なんて。
真贋鑑定書1枚で、終わりにした
翌朝、私は財布と鑑定書を紙袋に入れて、彼の部屋を訪ねた。
「これ、昨日の財布。偽物だったよ」
彼は一瞬、「えっ?」と取り繕ったが、すぐに目をそらした。
「……いや、そんなつもりじゃなくて……ちゃんとした店だったんだって」
「ねえ、私に対して“ちゃんとした気持ち”はあったの?」
黙る彼に、私は言った。
「ありがとう。でももう、いらない」
私はその場で紙袋を置いて、部屋を出た。
彼が追いかけてくることは、なかった。
Feature
おすすめ記事