藤井麻未
藤井麻未

2015.06.20(Sat)

驚異の技術力!水道橋に託されたローマの夢~フランス ポン・デュ・ガール~

南仏プロヴァンス地方、ニーム近郊。豊かな森と豊富な水を湛える川の風景に溶け込むようにして、美しく壮麗なアーチの列が見えてくる。

 

写真1

それは近づく毎にその壮大さに圧倒される水道橋、ポン・デュ・ガールであった。1世紀に古代ローマ人によって造られたこの水道橋は、ただ眺めてその壮麗さを称えるだけでは、あまりにもったいない。なぜならポン・デュ・ガールには、古代ローマの土木建築、水利技術の粋全てが継ぎ込まれているからである。そして彼らの技術とは、現代の先進的な技術さえも舌を巻いてしまう程の高度なものだったのだ。

 

【ポン・デュ・ガールとは】

50km離れたユゼス近郊の水源からニームの街に水を運ぶための水道施設のうち、ガール川にかかる橋の部分のことである。ここでまず疑問を抱くのは、なぜ彼らはすぐ傍にある川の水を使わなかったのかということ。それは、川の水が伝染病の源になることを既に知識として知っていたからだ。だからこそ彼らはこれほど離れた山間部から新鮮な湧水を引こうとしたのである。

 

写真2

【ローマ人の技術力】

土木建築技術に長けていたことで知られるローマ人であるが、彼らはこの時代、なんと技術のマニュアル化に成功している。ポン・デュ・ガールの建てられた時期はまさにローマ帝国全盛期であるが、恐るべきまでに拡大した領土内のあらゆる場所で全く同じ技術を以て建築物を造ることが可能だったとは、驚くばかりである。

 

写真3

水利技術自体にしても彼らには舌を巻くばかり。何しろ水源からニームの街までは50㎞(キロ)、両地点の高低差わずか17m(メートル)なのだ。言うまでも無く、水が流れるには必ず傾斜がなければならない。単純に計算すると、1kmあたり平均して34㎝、1㎝あたり0.0034㎜の傾斜を50㎞の間でつけなければならないのである。更に、この間には山が立ちはだかり谷川が流れる。これらを迂回しトンネルを作り、水の流れが淀むことなく流れるようにする技術というのは、およそ2000年前の人間がもっていたとは信じ難い。

 

【その規模】

全長50kmの水路のうち橋部分は275m、高さは12階のビルに匹敵する。そして3層のアーチが組まれている。これは古代の3階建の橋として現存するものの中で、世界一の高さにして唯一の例である。

 

【その建築技術】

3階建のアーチの列は当時実現したことのなかった程の巨大な湾曲面を持ち、6トンもの石材を、しかもモルタルやセメントなど一切使わずくさび状に積み上げている。驚くべきは600m離れた石切り場からこれらを運び、一体どうやって12階建ビルに匹敵する高さまで積み上げたのかということだ。当然クレーンなどない時代、途方もない労働力と試行錯誤が必要だったであろう。史上初のプレハブ工法ともいわれ、同じ大きさの石材を大量に造り一気に積み上げたと考えられる。

 

写真4

いずれにしても、計算しつくされた石のアーチは2000年以上経った今でもビクともせずに立ち続けているのである。鉄筋コンクリートビルの寿命が平均40年、長くても100年くらいであるから、これがいかにすごいことなのかがわかって頂けるだろう。この頃日本は稲作の始まった弥生時代。やれ竪穴住居だの掘立式建物だのと言っていた同時代の技とはとても思えない。

 

【その芸術性】

ポン・デュ・ガールの素晴らしさは、その建築技術だけに留まらない。芸術性の面からも高く評価されている。微妙な石材の色遣い、アーチの独創的な美しさ、そして大自然に違和感なく溶け込むよう計算されたデザイン。そのどれをとっても、美意識の高かったローマ人の作品として恥じない設計となっている。

 

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【ローマの夢】

驚きにとどめを刺す事実は、なんとこの50kmに渡る高度な水路は、たったの5年で完成したということだ。

 

“全ての道はローマに通ず”というようにローマ帝国は道路網、そして水道網などのインフラ整備戦略に帝国の夢を託していたのかもしれない。実際、元々は小さな異民族の寄せ集めだったローマという弱小国があれほどの大国になり得たひとつの要因に、これらの技術力の高さがあったと云われている。

 

ローマの各都市は水を贅沢に使ったことで有名である。完成した水路はニームに豊かな水をもたらし、公共浴場や邸宅に利用された。その量は日に2万トンを超えたと云われている。

 

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ポン・デュ・ガール及び水路の建設という夢に参加した者は約1000人。血や涙を流した奴隷たちも多く含まれるだろうが、彼らの偉業は2000年以上経った今もなお、私たちの心を打つ。

 

「この3層からなる素晴らしい建造物の上を歩き回ったが、敬意からほとんど足を踏めないほどであった。自分をまったく卑小なものと思いながらも何か魂を高揚させてくれるものを感じて、なぜローマ人に生まれなかったのかとつぶやいていたのだった(※)」

 

これは、後に水道橋を訪れたルソーの言葉である。

 

(※)ミシュラン・グリーンガイド プロヴァンス(南フランス) フランスミシュランタイヤ社 199161 P167



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