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「汚れが落ちきっていないぞ」旅館の厳しいオーナーによる最終チェック。私のミスを被って激怒された先輩の背中に、涙が止まらなかった
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「汚れが落ちきっていないぞ」旅館の厳しいオーナーによる最終チェック。私のミスを被って激怒された先輩の背中に、涙が止まらなかった
失敗続きのパート勤務
数年ほど前の記憶です。
当時、私はある温泉旅館でパートスタッフとして働いていました。
仕事の要領が悪かった私は、毎日のように小さなミスを繰り返していました。
「あ、またやっちゃった……」と落ち込む私を、いつもさりげなくフォローしてくれていたのが、年齢の近い先輩でした。先輩には常に頭が上がらない思いを抱えていました。
そんなある日の勤務中のこと。私の通常業務は客室の清掃でしたが、その日はシフトの都合で大浴場の清掃に回されることになりました。
ペアになったのは、いつも頼りにしてばかりのその先輩です。
「ふう、これで隅々まで綺麗になったね。お疲れ様!」
「お疲れ様です。先輩、今日もいろいろとサポートありがとうございました」
作業を終え、息をついたのも束の間。旅館のオーナーによる最終チェックの時間がやってきました。
このオーナーは、館内の美化に対して異常なほどの執着を持っており、スタッフの間でも恐れられている存在でした。
身代わりになった先輩
厳しい眼光を放ちながら、浴場内を歩き回るオーナー。
不意に、その足取りが止まりました。
「……ちょっと待て。ここの角、汚れが落ちきっていないぞ」
オーナーの指先が向いていたのは、他でもない私が磨いたはずの壁の隅でした。
(しまった、私の見落としだ。早く名乗り出なきゃ……)
そう思い、息を吸い込んだ瞬間のことでした。
「申し訳ありません! そちらは私の担当箇所でした。完全に私の確認不足です」
私の隣に立っていた先輩が、被せ気味に大きな声を出したのです。
ハッとして横を向くと、先輩は私を隠すように一歩前へ出ていました。
しかし、オーナーの「大浴場」に対する並々ならぬ執念は、私たちの想像を遥かに超えていました。
先輩の謝罪を聞くや否や、オーナーの表情はみるみるうちに険しくなりました。
「一体何を考えて仕事をしているんだ!お金をいただいているプロとしての意識が欠如しているんじゃないのか!」
「……おっしゃる通りです。申し訳ありません」
「謝って済む問題か! 湯船に浸かるお客様の目に触れたら、旅館の印象がどうなるか想像してみろ!」
そこからは、嵐のような説教が始まりました。
「はい」「申し訳ございません」と、ただひたすらに頭を下げ続ける先輩。減給などのペナルティこそないものの、オーナーの怒号は風呂場に響き渡り、結局20分以上もその場に立たされ続けました。
私はその間、震える唇を噛み締め、立ち尽くすことしかできませんでした。
(違うんです、私がミスをしたんです……!)
しかし、異様な空気に呑み込まれ、真実を口にする勇気が出ませんでした。私の身代わりとなって理不尽に怒鳴られ続ける先輩の背中を見つめる時間は、地獄のような苦痛でした。
嵐が去り、オーナーがいなくなった後、私は弾かれたように先輩の元へ駆け寄りました。
「先輩、本当に、本当にごめんなさい……! 私のせいなのに……っ」
「いいっていいって、気にしないで。次から気をつけて掃除すればいいだけの話だからさ」
先輩は、引きつった笑顔を見せながら慰めてくれました。しかし、私の感情はすでに限界を迎えており、ボロボロと大粒の涙が溢れ出しました。
身を呈して守ってくれたことへの深い感謝と、自分の情けなさで先輩に辛い思いをさせてしまったという強烈な罪悪感。
今でも、あの時に私を守ってくれた先輩の少し丸まった背中を思い出すと、感謝で胸がいっぱいになります。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

GLAM Lifestyle Editorial
編集部
日々の暮らしや選択を通して生まれる気持ちの変化に目を向け、人生を自分らしく整えていくヒントを届ける編集部チームです。仕事や人間関係、暮らしの質、価値観の揺らぎ。さまざまなテーマを横断しながら、今の自分にとって心地よい選択とは何かを考え、無理のない距離感で情報を発信しています。ときには短編小説の力も借りながら、日常にそっと寄り添い、気持ちを軽くするようなライフスタイルコンテンツをお届けします。
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