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「俺の奢りだから、新人も飲めよ!」と圧をかける先輩。会計時に出てきた伝票を見て固まった【短編小説】

「俺の奢り」というプレッシャー
入社して数ヶ月が経った金曜日の夜。私は部署の飲み会に参加していました。
初めての職場、初めての飲み会。右も左もわからない私は、とにかく失礼のないようにと緊張でガチガチでした。席に着くと、隣には一番元気で声が大きい、体育会系の上司という雰囲気の先輩が座りました。
乾杯が終わり、和やかな雰囲気で食事が始まったのも束の間。その先輩が、大きなジョッキを片手に私に言いました。
「おいおい!飲みが足りないぞ?俺の奢りだから、新人も飲めよ!」
私は、実はお酒があまり強くありません。自分のペースでゆっくり飲みたいタイプです。でも、ピカピカの新人である私が「飲めません」なんて言える雰囲気ではありませんでした。
「あ、はい、いただきます」
笑顔を引きつらせながら、まだ半分以上残っているグラスに口をつける私。しかし、先輩のお説教……いえ、ありがたいお話は止まりません。
「俺が新人の頃はなぁ、先輩に注がれた酒は全部飲んだもんだ!」
「仕事っていうのはな、飲み会も大事なんだよ!」
その言葉と同時に、私のグラスには次々とお酒が注がれます。「奢りだから」という言葉が、まるで「飲まないと損だぞ」という圧のように聞こえてきて、私はただ愛想笑いを浮かべるしかありませんでした。
周囲を見渡すと、他のテーブルにいるベテラン社員たちが、何やら楽しそうにメニューを指差しています。どうやら、普段は頼まないような、ちょっとお高めのお酒を注文しているようでした。
その時の私は、まさかそれが伏線だったとは思いもしませんでした。
小さくなった先輩の背中
宴もたけなわ。2時間ほどが経ち、皆がすっかり出来上がった頃、ついに会計の時間になりました。
「よーし、今日は俺が!」
あの先輩が、待ってましたとばかりに胸を張って立ち上がります。「ごちそうさまです!」という声があちこちから飛ぶ中、先輩は店員さんから差し出された伝票を、意気揚々と受け取りました。
次の瞬間、時が止まりました。
あれだけ陽気だった先輩が、伝票を持ったまま、ピクリとも動かなくなったのです。さっきまでの笑顔が顔に張り付いたまま、目が点になっています。
「……え?」
かすかに漏れた声。先輩は伝票をもう一度、いや、二度、三度と見返し、その顔から急速に血の気が引いていくのがわかりました。さっきまでの威勢はどこへやら、完全に固まっています。
私も横からちらりと見えてしまったのですが、そこには驚くような金額が印字されていました。どうやら、ベテラン社員たちが「奢り」と聞いて注文した高級酒の数々が、見事に積み上がっていたのです。
「どうしました?」と別の先輩が声をかけると、固まっていた先輩は「あ、いや……」と、蚊の鳴くような声でうろたえるばかり。
結局、その場は一番上の上司が「まあまあ、今日は部署の経費で」とスマートに助け舟を出し、事なきを得ました。さっきまで「俺の奢りだ!」と豪語していた先輩は、会計が終わるまで青ざめた顔で小さくなっていました。
「奢り」という言葉の重みを、私だけでなく、きっとあの先輩自身が一番痛感した夜だったと思います。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。
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