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「お前の服、俺の給料より高いじゃん」と嫌味な彼氏。→「じゃあ私の年収、知ってる?」と源泉徴収票を見せたら黙り込んだ。【短編小説】

ブランド好き=浪費家?
「うわ、それまた新しい服?てか、俺の給料より高いんじゃね?」
春斗(はると)は、私のジャケットを見るなりニヤつきながらそう言った。
目立たないけど仕立てのいいベージュのジャケット。セールで買ったものだけど、それなりの値段はする。
「まあ、いいじゃん。気に入ってるし」
と、軽く流したつもりだった。
けれどその日から、春斗の“値踏み癖”は加速していった。
「またネイル行ったの?金あるね〜」
「毎朝カフェ寄ってんの?節約とかしないの?」
まるで“自分が支払っている”かのような口ぶり。もちろん、私は全部自分のお金でやっている。
私のどこに惹かれたの?
春斗とは、友人の紹介で知り合った。
趣味も合うし、最初は話していて楽しかった。だけど、交際が深まるにつれ、彼の“コンプレックス混じりの嫌味”が見え隠れするようになった。
「なんかさ、俺のこと“頑張ってる庶民”って感じで見てない?」
ある日、彼がそう呟いた。
「え、そんなこと思ったことないけど…」
「だってさ、○○(私)の会社って給料いいんでしょ?
どうせ俺のこと“コスパ悪い彼氏”とか思ってんじゃないの?」
ため息が出た。
そんなふうに考えてるのは、きっと彼自身だ。
私は、春斗の“収入”が少ないことが嫌なのではない。
自分の劣等感を、私を下げることでバランス取ろうとする、その態度が嫌なのだ。
「じゃあ、私の年収知ってる?」
ある夜。
私が新しいバッグを買った帰り、またしても彼がボソッと嫌味を言った。
「ほんと、すごいよな〜。お前の服装、俺の月収の何倍よ…」
その瞬間、私はふとバッグの中に入っていた“あるもの”を思い出した。
会社から受け取った源泉徴収票。
提出のために封筒に入れていたのを、たまたまバッグに入れっぱなしだったのだ。
私は無言で取り出し、彼の前に置いた。
「じゃあ、私の年収、ちゃんと知ってる?」
彼は一瞬、驚いたような顔をして、それから目線を落とした。
「……マジで?」
「うん。別に自慢したいわけじゃない。ただ、私が“自分の努力で手に入れたもの”を、簡単に茶化してほしくないだけ」
しばらく沈黙が続いた。
そして彼は、小さくつぶやいた。
「……ごめん」
その後、春斗は少しずつ変わった――ということはなかった。
最後は静かに、お別れを
それから数週間、彼なりに気を遣おうとしてくれたのはわかった。
でも、結局彼の口から出るのは、「男として情けないよな」とか「やっぱ釣り合わないのかな」ばかりだった。
私はその言葉に疲れた。
恋人同士で、一体どちらが“上”かを競う必要なんてない。
必要なのは、リスペクトだ。
そして私は、静かに別れを告げた。
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