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『きみは、ただの道具だ』課長にパワハラされる私を救ったのは・・・【短編小説】

「きみ、取引先に行って、謝ってきてくれないか?」
課長の佐藤は、まるで他人事のようにそう言った。
彼のミスで、会社が大きな損害を出すことになった。本来なら彼が謝罪に行くべきなのに、彼は私にその役目を押し付けたのだ。
新入社員だった私は、何も反論できず、ただ頷くことしかできなかった。
謝罪に向かった取引先の会議室。相手の部長の前に座った私は、震える声で頭を下げた。
すると、相手の部長は「君に責任はないだろう」と、逆に私を気遣ってくれた。
しかし、会議室から会社に戻ると、佐藤は「よくやった」と、まるで自分の手柄のように言った。
その日から、私は彼にとって都合のいい存在になっていった。
「きみは、ただの道具だ」
佐藤は、私に無理な仕事を押し付け、彼のミスはすべて私に責任転嫁するようになった。
私は毎日残業を強いられ、心も体もボロボロになっていった。そんな私を見かねた先輩が、「佐藤は昔からそういう人なんだ」と教えてくれた。
ある日、私は勇気を出して佐藤に反論した。
「どうしていつも私ばかり…」と。
すると彼は、冷たい目で私を見下ろしながら、こう言い放った。
「きみは、ただの道具だ。俺の指示通りに動いていればいいんだ。」
その言葉に、私の心は完全に折れた。私は、彼の都合のいい道具として、ただ働く日々を送っていた。
“道具”だった私が、見つけた居場所
私は、会社を辞めることを決意した。そして、転職活動を始めた。
履歴書を書きながら、私は自分が何をしたかったのか、何ができるのか、改めて考えた。
しかし、特別なスキルも経験もない私に、面接官は誰も見向きもしてくれなかった。
そんな私を救ってくれたのは、一本の電話だった。前に謝罪に行った取引先の部長だった。
「きみの仕事に対する真摯な姿勢を見ていたよ。うちの会社に来ないか?」
彼の言葉に、私は涙が止まらなかった。
私は、新しい会社で、自分のことを“道具”としてではなく、“人”として見てくれる仲間たちと出会った。
そして、自分の仕事が誰かの役に立っていることを、心から実感できるようになった。
あの頃の私は、ただの道具だった。
でも、あの経験があったからこそ、私は自分の居場所を見つけられたのだと、今は心からそう思える。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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