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「全部タダ」は嘘…インフルエンサー友人とのバリ旅行。帰りの空港で割り勘地獄が勃発[短編小説]

全部タダは嘘インフルエンサー友人とのバリ旅行帰りの空港で割り勘地獄が勃発短編小説

 

「ミサキ、来月バリ島行かない?アシスタントとして写真撮ってくれるだけでいいからさ、旅費もホテルも全部タダだよ!」

スマホの向こうから聞こえるキラキラした声の主は、友人のリナ。フォロワー数10万人超えの、いわゆる”インフルエンサー”だ。彼女のSNSは、高級ホテルやお洒落なカフェ、ブランド品で埋め尽くされている。そんな彼女からの夢のような誘いに、私は二つ返事で「行く!」と叫んでいた。

仕事をやりくりし、パスポートを握りしめて向かったバリ島。しかし、私の淡い期待は、到着初日にして木っ端微塵に打ち砕かれた。

これは旅行じゃない。”アシスタント”という名の無給労働

「ミサキ、もっと腰落として!」

「この角度じゃないって言ってるでしょ!」

「太陽の位置考えて!」

灼熱の太陽の下、私はリナの専属カメラマンと化していた。朝食のパンケーキから始まり、プールサイド、サンセットビーチまで、1日に何百枚とシャッターを切り続ける。リナは完璧な一枚が撮れるまで、決してOKを出さない。その間、私は汗だくでカメラを構え、彼女は涼しい顔でスマホをいじっているだけ。

食事中もそうだ。「これ、PR案件だから」と言ってテーブルに並べられる、二人では到底食べきれない量の料理。それらを前に、私は食べるよりも先に、あらゆる角度から撮影を命じられる。

インスタのストーリーには、「親友のミサキと最高の旅♡」というコメントと共に、満面の笑みを浮かべた私たちの写真が次々とアップされていく。その裏で、私が感じていたのは、楽しさよりも虚しさと疲労感だけだった。

帰りの空港で始まった、悪夢の”精算タイム”

あっという間に過ぎた5日間。正直、心から楽しめたとは言えなかったけれど、「タダで海外旅行ができたんだから」と自分に言い聞かせ、私たちはバリの空港にいた。

出発ロビーのベンチに座り、ほっと一息ついたその時だった。

「ねぇミサキ、楽しかったね!じゃあ、ちょっとここらで精算しよっか!」

リナはそう言うと、スマホの電卓アプリと、どこからか取り出したレシートの束を私の目の前に広げた。

「え…精算って?全部タダなんじゃなかったの?」

私の言葉に、リナは心底驚いたような顔をして、そして次の瞬間、軽蔑するような冷たい笑みを浮かべた。

「何言ってるの?タダなのは、PR案件として招待された私の分のフライトとホテルだけだよ?ミサキの航空券代、約8万円は普通にかかってるよ?」

頭が真っ白になった。言葉を失う私に、彼女は追い打ちをかける。

「二人で食べた食事代とか、スパ代はもちろん割り勘でしょ?常識的に考えて。まさかそれもタダだと思ってたの?甘えすぎじゃない?」

突きつけられた請求額と、崩れ去った友情

リナが突きつけてきたスマホの画面には、信じられない金額が表示されていた。

 

  • 航空券代:82,000円
  • 食事代(5日分合計÷2):45,000円
  • スパ代(÷2):12,000円
  • その他アクティビティ代(÷2):8,000円
  • 合計:147,000円

 

「14万…!?そんな…!だって、アシスタントとしてって…」

「アシスタント?写真撮ってくれただけでしょ?ボランティアみたいなもんじゃん。それで航空券までタダになるわけないでしょ」

周りの旅行客がちらちらと私たちを見ている。恥ずかしさと悔しさで、涙が滲んできた。これはもう、友人との会話じゃない。冷酷な債権者と、無力な債務者の構図だ。

これ以上、異国の空港で揉めるわけにもいかず、私は震える手で自分の銀行アプリを開き、なけなしの貯金を彼女に振り込んだ。

日本へ帰る飛行機の中、私たちの間に会話は一切なかった。窓の外に広がる美しい雲を眺めながら、私はこの5日間で失ったものの大きさを噛み締めていた。

帰国後、残金を振り込むと、私はリナのSNSを全てブロックした。数日後、共通の友人経由で彼女の投稿を目にした。そこには、バリで撮った満面の笑みの私の写真と共に、こう書かれていた。

「最高の親友と最高の旅!一生の思い出をありがとう♡」

その投稿に、反吐が出そうだった。「タダ」より高いものは無い。私はこの旅で、友情とお金、そしてSNSのきらびやかな世界の裏側にある真実を、痛いほど学んだのだった。

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