Share
「また残業?要領悪っ」と嫌味を言う同僚。だが、残業の理由を知ってからは態度が一変。実は【短編小説】

嫌味を言う同僚
オフィスの時計が、定時の18時を指しました。
フロアのあちこちで「お疲れ様でした」という声が飛び交い始めます。
私も残業してキリのいいところで帰ろう、と思っていた矢先でした。
隣の席の同僚が、勢いよく立ち上がります。
彼は私より少し年下ですが、自分は仕事ができると信じているタイプです。
「お先に失礼しまーす!」 元気な声。
しかし、彼はまだデスクに向かっている私を見ると、あからさまに呆れたような顔をしました。
「あれ、また残業? 要領悪っ。まぁがんばってね」 その言葉は、チクリと私の胸を刺しました。
私は、ただ苦笑いを返すしかありません。
(要領が悪い、か……)
残業をする理由
ええ、そう見えているのでしょう。
彼は知らないのです。
私が今、残業してまで必死に修正しているこの資料が、彼自身が今日提出したものだということを。
明日の朝、役員も出席する大事な会議で使うプレゼン資料です。
最終チェックを任された私は、その資料に隠された、致命的な数字の間違いを見つけてしまいました。
もし、このまま通していたら? 想像するだけで、背筋が凍ります。
会社にどれだけの迷惑がかかるか。
そして、何より、彼自身がどれだけ叱責されることになるか。
「ちょっと、ここの数字…」と彼を呼び止めるべきか、一瞬迷いました。
でも、彼は「完璧です!」と自信満々に上司に提出していました。
今ここで間違いを指摘したら、彼の自信もプライドも、粉々になってしまうかもしれません。
それに、上司からも「彼はまだ若いから、気づいたことがあったら、内密にフォローしてあげてほしい」と、こっそり頼まれてもいたのです。
「……お疲れ様。気をつけて」 私がそう言うと、彼は「はい!お先にです!」と、鼻歌でも歌い出しそうな機嫌の良さでオフィスを出ていきました。
彼の背中を見送りながら、私は深いため息をつきます。
私は気持ちを切り替えて、赤くマークした数字を、正しいものに打ち直していく作業に戻りました。
ミスに気づいた同僚
その時でした。静寂を破る足音が響きます。
「うわ、スマホ忘れた」 戻ってきたのは彼でした。
画面には、彼のミスだらけの資料と私の修正履歴が映し出されています。
「え…それ、俺の資料? なんでいじってるんですか?」
不満げな彼に、私は観念して告げました。
「利益予測の桁が違ってたの。このままだと明日は『大赤字』の報告になるわ」 彼は絶句し、画面を凝視しました。
そこにあるのは、私が黙って修正した膨大な赤字(あかじ)の山。
「俺、完璧だと…。じゃあ、さっきの残業って、まさか全部俺の尻拭い…」
「課長には内密よ。今直せば間に合うし、あなたの評価も下がらない」
私が笑うと、彼は顔を真っ赤にして深々と頭を下げました。
「すみませんでした! 俺のミスのせいで……要領悪いなんて言って!」
彼は上着を脱ぎ捨て、隣の席に座りました。
「手伝わせてください! 全部直します!」 それから二時間後。
修正を終えた私たちは缶コーヒーで乾杯しました。
「本当にすみません。これからは謙虚に頑張ります」 しゅんとする彼に、私は笑って言いました。
「期待してる。明日の本番、頼んだわよ」 深夜のオフィスに、今度こそ温かい「お疲れ様でした」が響きました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
******************
心に響くストーリーをもっと読みたい方
【他のおすすめ短編小説を見る】
******************
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。
友だち登録&アンケート回答で「Amazonギフトカード」など好きな商品を選べるギフトを毎月抽選で5名様にプレゼント!
\ 今すぐ応募する /
Feature
特集記事

