Share
『ごめん、指輪なくした』と謝る彼。数日後、ルンバのゴミの中から『真実』を見つけてしまった【短編小説】

なくしたと言われた婚約指輪
あの日の彼の言葉は、今でも耳に残っています。
「ごめん、婚約指輪、なくしちゃった」
何度も探したけど見つからないと、彼は申し訳なさそうに笑いました。信じたい気持ちと、胸の奥で芽生えた小さな不安が混ざり合い、その夜は眠れず天井を見つめていました。
彼は本当に探したのか、あの笑顔の裏に何があったのか——考えれば考えるほど、不安は大きくなっていきました。
掃除ロボットが教えてくれたこと
数日後の朝、いつものようにルンバのダストボックスを掃除していました。カチリと外した瞬間、ゴミの中で何かが光りました。
手を伸ばし、慎重に取り出すと、それは間違いなく私の婚約指輪でした。傷一つなく、きれいなまま。しかし、ルンバが吸い込むような場所に、なぜあったのか。
脳裏に浮かんだのは、偶然ではなく意図的に隠された可能性。彼の手がそこに関わっていたとしたら、その理由は一つしかありません。
詰まった喉と冷たい視線
その夜、彼が帰宅すると、私は何も言わずに指輪をテーブルの上に置きました。
「これ、ルンバの中から出てきたよ」
彼は一瞬、呼吸を止めたように動きを止め、すぐに視線を逸らしました。口を開いたものの、言い訳の言葉は出てこず、部屋には重く冷たい沈黙だけが漂いました。
その沈黙が、何よりの答えでした。問い詰める必要も、説明を求める必要もありませんでした。
恋が終わる音
翌朝、私は指輪を小さな箱にしまい、彼の机の上に置きました。手紙も何も添えません。もう言葉はいらなかったのです。
朝の光が差し込む部屋で、私は静かに荷物をまとめました。彼はまだ眠っており、私の足音に気づくこともありません。
玄関を出る瞬間、ふと振り返ると、テーブルの上には昨夜と変わらぬ光景。そこに置かれた指輪が、まるで私たちの関係を象徴しているようでした。
恋は、大きな喧嘩や劇的な出来事ではなく、こんなふうに静かに終わることもあるのだと、その時知りました。ルンバの中から出てきたのは、指輪とともに、彼への最後の想いだったのです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
Feature
おすすめ記事