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失恋旅行で全財産失った私。→異国の村で出会った『レシピ』が、私の人生を逆転させた【短編小説】

「もう、何もかもどうでもいいや」
失恋の痛みを癒すため、一人で訪れた異国の地。心機一転、新しい自分を見つけようと旅に出たはずだった。しかし、出発から数日後、私はカフェで置き引きに遭い、パスポートと全財産を失ってしまった。頼れる人もいない、言葉も通じない異国の地で、文字通り無一文になった私は、絶望の淵に立たされました。
空腹と疲労でフラフラになりながら、どうにかたどり着いたのは、地図にも載っていないような小さな村でした。観光客は一人もおらず、聞こえてくるのは村人の優しい声と、どこからか漂うスパイスの香りだけ。その香りに誘われるように、私は一軒の小さな食堂に足を踏み入れました。
異国の村で出会った、たった一皿の料理
手持ちのお金がないことを伝えると、食堂の老婦人は「お腹が空いてるだろう」と、微笑んで温かいスープを出してくれました。一口飲むと、その素朴な味の中に、私がこれまで感じたことのない温かさが広がりました。それは、私の心を埋め尽くしていた絶望を、ゆっくりと溶かしていくようでした。
「こんなに美味しい料理、初めて食べました」
老婦人は私の言葉に嬉しそうに微笑むと、スープのレシピを教えてくれました。それは、何十年も前に彼女の母親から受け継いだ、この村にしか伝わらない特別なレシピでした。材料はどれも地味なものばかり。でも、そこに込められたのは、人を想う心。老婦人は私に「お金はなくても、心を込めて作るだけで、人は幸せになれるんだよ」と、優しく語りかけてくれました。
魔法のレシピがくれた、新しい人生
日本に帰国した私は、早速そのスープを再現してみました。すると、あの日の感動が蘇り、自然と笑顔になっていたのです。私はこの味を、一人でも多くの人に届けたいと思うようになりました。失った全財産を諦め、残ったわずかな貯金で、私は小さなフードトラックを始めたのです。
私の作ったスープは、瞬く間に評判になりました。地味な食材なのに、なぜか心が満たされる不思議な味。老婦人の言葉通り、心を込めて作ると、その温かさが伝わるようでした。お客さんの中には、私のスープを一口飲んで涙を流す人もいました。
数年後、私は小さな実店舗をオープンさせるほどになりました。あの失恋旅行で全財産を失った日から、私の人生は大きく変わりました。あの絶望がなければ、あの食堂にたどり着くこともなかった。そして、あのレシピに出会うこともなかったでしょう。あの日の出来事は、私の人生を逆転させるための、必要な出来事だったのだと、今は心からそう思えます。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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