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保険証1枚でバレた二重生活…探してたのは自分の保険証、見つけたのは彼のもう一つの人生【短編小説】

体調が悪い時に見つけてしまったある物とは
その夜、私は急な高熱と、割れるような頭痛に襲われていました。
同棲している彼氏の浩平に支えられ、夜間救急病院へ行こうとしたのですが、どうしても保険証が見つかりません。
「ごめん、浩平の財布に間違えて入れちゃったかも…」
朦朧とする意識の中、私はか細い声で言いました。
ありえないとは思いつつも、必死で探す私に、彼は少し慌てた様子で自分の財布を差し出しました。
彼が財布を開き、カード入れをぱらぱらと確認した、その時です。
中から一枚、カードが滑り落ちました。保険証でした。
見つけた保険証の秘密とは
「あった…!」と安堵したのも束の間、拾い上げたカードを見て私は言葉を失いました。
私の名前である「亜紀」ではなく、そこには知らない女性の名前が印字されていたのです。
『佐藤 由奈』
そして、その下には「被扶養者」として、彼の名前が。―――浩平。
頭の痛みが、すっと引いていくのが分かりました。
代わりに、全身を突き抜けるような、冷たい衝撃。
これは、浩平が「扶養」されている、彼の「妻」の保険証。
私がずっと探していた一枚ではなく、決して見つけてはいけなかった、二枚目の保険証だったのです。
今まで彼が結婚を考えなかった理由
彼の頻繁な出張。
週末に連絡が取れなくなること。結婚の話を、いつも巧みにはぐらかしていた理由。
全てのパズルのピースが、最悪の形で組み上がりました。
「……浩平」
私の声は、自分でも驚くほど静かでした。
「この、由奈さんって、誰…?」
彼の顔から、みるみる血の気が引いていきます。
彼は、私の恋人ではありませんでした。彼は、佐藤由奈という女性の夫だったのです。
その夜、私は病院へは行きませんでした。
体の痛みなど、どうでもよくなっていましたから。
後になって、私の保険証は、棚の裏からひょっこりと見つかりました。
その後私は、あの部屋を後にしたのでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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