Share
『あなたもやってるんですか?』患者の一言に胸を突かれた美容外科看護師の告白【短編小説】
INDEX

美容外科の私のやり甲斐
「綺麗になるって、魔法みたいですね」
美容外科の看護師として働く私、詩織にとって患者様からいただくその言葉が何よりのやり甲斐でした。
鏡を見て嬉しそうに微笑む姿に、この仕事の意義を感じる毎日。
私は、自分の仕事に誇りを持っていました。
その日、私のカウンセリングに来てくれたのは、大学生の遥さん。
初めての施術を前に、こわばった顔でぎゅっと手を握りしめています。
私はいつものように、優しい声で施術の効果や流れを丁寧に説明していきました。
「…以上となります。大丈夫、安心してくださいね」
私の説明が終わり、遥さんが少しだけほっとした表情を見せた、その時です。
彼女は、私の顔をじっと見つめ、純粋な瞳でこう尋ねました。
彼女のある質問とは
『あの…看護師の詩織さんも、これをやってるんですか?』
心臓を、ぐっと掴まれたような衝撃でした。
今まで何度も聞かれたことのある質問です。
でも、その日の彼女の真っ直ぐな瞳は、私にいつものような建前の返事を許しませんでした。
本当はずっと興味があった。
本当は私だって、綺麗になりたかった。
でも、怖かったのです。自分自身が一歩を踏み出す勇気が、私にはありませんでした。
「…ううん、私は、やったことがないんです」
絞り出した私の声は、少しだけ震えていました。
遥さんの顔に、かすかな不安の色が浮かびます。
私は、続けました。
「だから、遥さんみたいに、勇気を出してここに来てくれた方のことを、心から尊敬しています」
それは、看護師としてではなく、一人の女性としての私の本心でした。
私の告白に、遥さんの緊張がふっと解けていくのが分かりました。
その日、彼女が帰った後もその言葉はずっと私の胸の中にありました。
「あなたもやってるんですか?」と。
そうだ、どうして私はやらないんだろう。
毎日、人の背中を押している私が、どうして自分自身の背中を押してあげられないんだろう。
私は、その足で受付カウンターへ向かいました。
そして、遥さんと同じ施術の予約を、自分の名前で入れたのです。
患者様の一言が、私の心の壁を壊してくれました。
綺麗になるための魔法は、私が一番、自分自身にかけてあげるべきものだったのです。
▼こちらの記事もおすすめ
「美容外科の看護師を辞めたい 」先輩看護師にインタビューして聞いてみた
【編集部注】
本記事は、美容外科の看護師を題材にした創作小説です。登場する人物・団体・出来事はすべて架空のものであり、特定の医療機関や施術を推奨する意図はありません。物語内で描かれる経験や心情はフィクション上の演出であり、実際の医療行為や効果を保証するものではありません。
Feature
おすすめ記事