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SNS嫌いの父が、母にだけ送ったラブレター。その『不器用すぎる愛の言葉』に、家族が涙した【短編小説】
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「SNSなんて、人の自慢話を見るだけで意味がない」
それが、私の父、健一の口癖でした。昭和一桁生まれのような頑固さを持つ父は、特にSNSを毛嫌いしており、家族で唯一、どのアカウントも持っていませんでした。
そんな父が、信じられない行動に出たのは、母、智子の還暦祝いの日のことです。
その日、私のスマホが、友人たちからの通知でひっきりなしに鳴り始めました。
「これ、結衣ちゃんのお父さん!?」「めっちゃバズってるよ!」と、興奮した様子のメッセージと共に、あるインスタグラムの投稿のスクリーンショットが送られてきました。
そのアカウントの正体は
アカウント名は、おそらく父が作ったであろう「健一より智子へ」。そして、そこに投稿されていたのは、一枚の写真と、長い文章でした。
写っているのは、豪華な料理でも、高価なプレゼントでもありません。
一本の、古びた赤い傘でした。
そして、その写真に添えられていたのは、不器用な父が母のためだけに綴った、長いラブレターだったのです。
『智子へ。還暦おめでとう。
これは、35年前の初デートの日、雨に濡れる君のために買った傘です。
安物だったのに、君は「宝物にする」と言って、何度も修理しながら、今も玄関で大切に使ってくれているね。
お互い、シワも白髪も増えたけれど、君を大切に思う気持ちは、この傘のように、ずっと変わらない。いつも本当にありがとう。
健一より』
投稿を読んだ母は…
読み終えた時、私の目には涙が溢れていました。
リビングにいる母に目をやると、母もスマホを片手に、静かに涙を流しています。
父は、そんな母の隣で、照れ臭そうにテレビを見つめていました。
普段「ありがとう」の一言さえ、まともに言えない父。
SNSを「意味がない」と馬鹿にしていた父が、母に想いを伝えるため、こっそりと使い方を覚え、慣れない手で言葉を打ち込んでいたのです。
その不器用で、正直な投稿は、多くの人の心を打ち、「素敵すぎる」「理想の夫婦」といったコメントで溢れかえっていました。
父が起こした、一夜限りの奇跡。
それは、どんなプレゼントよりも母の心を震わせた、世界で一番温かい“バズる投稿”になったのでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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