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彼に「職場の後輩と結婚する」と捨てられた私→数年後、その後輩が私に相談を持ちかけてきた【短編小説】

私を捨てた彼
『ごめん。会社の、後輩と結婚することになった』
三年前。
当時、結婚も考えていた恋人の達也から、突然そう告げられました。
後輩の梨香さんと、いつの間にか、そういう関係になっていたのだと。
長年、私が隣で支えてきた時間は、若さと愛嬌の前にはあまりにも無力でした。
捨てられたという屈辱と、心にぽっかりと空いた穴。
私は、その感情を埋めるように、仕事に全てを打ち込みました。
元々、人事部で働いていた私は、キャリアコンサルタントの資格を取得。
今では、社員のキャリアや人間関係の悩みに耳を傾ける、相談員のような役割を担っています。
相談に来た相手は…
そんなある日のことでした。
私の元に、一件の面談予約が入りました。相談者の名前は、梨香さん。
達也と結婚した、かつての後輩でした。
面談室に現れた彼女は、ひどく疲れた顔をしていました。
私のことには気づいていないようです。そして、堰を切ったように、悩みを話し始めました。
夫である達也が、近頃、毎晩帰りが遅いこと。
家庭を全く顧みず、「家のことはお前の仕事だ」と言い放つこと。
彼はまた職場で誰か、別の女性と親しくしているのではないかと。
『結婚したら、幸せになれると思ってたのに…』
涙ながらに訴える彼女の話は、奇しくも、三年前の私と達也の関係の末路と全く同じでした。
結局、彼は何も変わっていなかったのです。
相手を、私から彼女に取り替えただけで。
目の前で泣きじゃくる彼女に、私は、人事部の美咲として、冷静に、そして客観的に、アドバイスを送りました。
自分のキャリアをどう考えるか、彼との関係をどうしたいのか。
面談が終わり、少しだけ吹っ切れた顔で「ありがとうございました」と頭を下げる彼女。
最後まで、彼女が私の正体に気づくことはありませんでした。
私から達也を奪った彼女が、数年の時を経て皮肉にも私に救いを求めに来た。
不思議と、胸がすっとしました。
復讐心などはありません。ただ、彼との別れを乗り越え、自分の足で、人の相談に乗れるまでに強くなった自分を、少しだけ誇らしく思えた一日でした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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