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『お前と付き合ったのは黒歴史』と酒の席で暴露された私。→その夜、彼が見た光景【短編小説】

大学の同窓会で元彼が言った言葉
大学時代のゼミの同窓会。
数年ぶりに会う元カレ、拓海もその席にいました。
彼の自信過剰なところは昔のまま、一流企業に就職したことでさらに傲慢さに磨きがかかっているようでした。
宴もたけなわ、お酒が入った拓海が昔の恋愛話で盛り上がっていた時のことです。
彼は、テーブルの向かいに座る私をわざとらしく指さし大声で笑いました。
『いやー、莉奈と付き合ってたのは、マジで俺の黒歴史だわ!若気の至りってやつ?』
一瞬で、場の空気が凍りつきました。
周りの同級生たちが同情的な目で私を見ています。
顔から火が出るほど恥ずかしく、私はただ固い笑顔を浮かべることしかできませんでした。
気まずい雰囲気のまま、会はお開きに。
私は、一刻も早くその場から逃げ出したくて、誰よりも先に店を飛び出しました。
冷たい夜風に当たり、張り詰めていたものが切れ、涙が溢れそうになったその時です。
「莉奈、お待たせ」
私を迎えにきた男性とは
優しい声と共に、一台の黒い外車が、私の目の前に滑るようにして停まりました。
運転席から降りてきたのは私の今の恋人、翔平さんです。
彼は、寒かっただろうと自分のジャケットを私の肩にそっとかけてくれました。
その一部始終を、店の前で呆然と立ち尽くして見ていた人物がいます。
たばこを吸いに出てきたであろう、拓海でした。
彼は、高価な車洗練されたスーツに身を包んだ翔平さん、そして、その隣で大切そうにされている私を、信じられないという顔でただ見つめています。
翔平さんが、そんな拓海に軽く会釈をし、私のために助手席のドアを開けてくれました。
車に乗り込む間際、私は拓海と一瞬だけ目が合います。
彼の顔には、驚きと、焦りと、そして、ほんの少しの嫉妬が浮かんでいました。
彼が「黒歴史」と嘲笑った、地味で冴えなかったはずの元カノ。
その彼女が今、自分よりも何倍も素敵な男性に何よりも大事にされている。
その夜、彼が見た光景は、どんな言葉よりも雄弁に、私たちの今の幸福と、彼が失ったものの大きさを、物語っていたことでしょう。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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