Share
余命宣告された日、私は彼に最低な嘘をついた。愛する人を『突き放す』ための別れ話【短編小説】

「余命、半年です」
医師の言葉が頭の中で繰り返される。つい昨日まで、彼とこの先どんな未来を築いていこうか、楽しそうに語り合っていた。
しかし、そのすべてが、たった一言で脆くも崩れ去った。
愛する人との時間を大切に過ごしたい。彼に寄り添ってほしい。そんな弱い気持ちが湧き上がる一方で、彼を私の病気が進行していく姿に付き合わせることなど、絶対にできないと強く思った。
彼は優しくて、私が苦しむ姿を見たら、きっと自分のすべてを犠牲にしてでも支えようとするだろう。そんな彼を、私は見ていられない。
彼の人生を、私という終わりの見えた存在に縛り付けたくない。私の唯一の選択肢は、彼を突き放すことだった。
愛する人を守るための“最低な嘘”
彼が私から離れていくには、彼に私を嫌いになってもらうしかない。私は、彼が最も傷つくであろう、残酷な嘘をつくことを決意した。
「他の男に乗り換えた」
私の頭に浮かんだのは、それまで真剣に考えたこともなかった、あまりにも身勝手な理由だった。
彼は、私のことを心から愛してくれていた。だからこそ、この嘘はきっと彼を深く傷つけるだろう。
嘘をつくことは、余命宣告を受けたことよりも、もっと苦しいことだった。
しかし、彼の未来を守るためなら、私はどんな悪役にもなってみせると心に誓った。
涙をこらえた、最後の別れ
私たちの思い出の場所である、海の見えるカフェで彼と会うことにした。
彼は何も知らないまま、穏やかな笑顔で私を待っていた。その屈託のない笑顔が、私の心をさらに引き裂く。
「健司、ごめん。もう別れてくれないかな」
私がそう切り出すと、彼の笑顔が凍りついた。
「どういうこと…?」と震える声で尋ねる彼に、私は嘘の言葉を淡々と告げた。
「あなたといるの、もう飽きちゃった。もっと刺激的な人がいいなって、思っちゃったんだよね」
私の言葉に、彼の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。私は必死に自分の涙を堪え、ただただ冷たい表情を貼り付ける。
彼は何も言わず、ただ静かに立ち上がり、背を向けて去っていった。その背中を見送った後、私は彼に聞こえないように、声を殺して泣き崩れた。
私の人生はもうすぐ終わるけれど、彼の人生は、これから始まるのだから。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
Feature
おすすめ記事