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「浮気しない」と語る彼の口より、彼の“肌”の方が正直だった。薬指の日焼け跡が告げた真実【短編小説】
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信頼していた彼氏の裏切り
「俺、浮気とか絶対ムリなタイプなんだ。そういう不誠実なこと、人として一番軽蔑するから」
私の彼氏、翔太は、まっすぐな目でよくそう言っていました。
その言葉を聞くたび、私はこの人となら大丈夫だ、と安心しきっていました。
彼の真面目さが、私の何よりの自慢でした。
先週、彼は「急に会社の研修旅行が入った」と言って、二泊三日で沖縄へ行きました。
「男だらけの体育会系のノリで、正直疲れるよ」と面倒くさそうに笑う彼に、私は「お仕事大変だね。頑張って」とエールを送ったのです。
旅行中もマメに連絡をくれ、私は彼の誠実さを疑うことなどありませんでした。
それから数日後のことです。こんがりと日に焼けて帰ってきた彼と、私の家で夕食を囲んでいました。
他愛ない話をしながら、彼がお茶の入ったグラスに手を伸ばした、その瞬間でした。
左手の謎の指輪…
私の目は、彼の左手の薬指に吸い寄せられました。
日焼けした肌に、一本の白い線がくっきりと浮かび上がっているのです。
それは、指輪をずっと嵌めていたことによってできる、紛れもない日焼けの跡でした。
どうして指輪の跡が?それも、左手の薬指に。
そして、なぜ今、その指輪は外されているの…?
「翔太くん」
私の声が、自分でも驚くほど低く、冷たく響きました。
「その指の跡、どうしたの?」
私の視線の先に気づいた彼の顔が、一瞬でこわばりました。
彼は慌てて左手をテーブルの下に隠しましたが、もう手遅れです。
「あ、ああ、これ?これは、その…お土産で買ったアクセサリーを、ちょっと試しに着けてただけで…」
しどろもどろになる彼の姿を見て、私は全てを察しました。
きっと、会社の研修旅行なんて嘘。
彼は、誰か大切な人と沖縄の太陽の下で過ごしていたのでしょう。
そしてその人の前では、左手の薬指に指輪を嵌めている。私と会うときだけ、それを外して。
「浮気とか絶対ムリなタイプ」なんじゃなかったの?その言葉が、頭の中で虚しく響きます。
彼の口から語られた誠実さの全てが、彼の肌に残ったその小さな白い線によって、無残にも暴かれてしまいました。
嘘をついていた彼の言葉より、正直に日差しを浴びた彼の皮膚の方が、ずっと雄弁に真実を語っていたのです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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