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「会社からはこれだけしか…」と出張手当のほとんどをピンハネするケチ上司。→”経費レシートの裏”に実態を書き込み、社長に直接渡した結果…。【短編小説】

「会社からはこれだけしか…」
出張手当の大半を“なかったこと”にするケチ上司
「今回の出張手当、会社からは“3,000円”しか出ないから」
そう言って、封筒を渡してきたのは営業部の山野課長だった。
2泊3日の地方出張で、移動は新幹線、食事も外食ばかり。それで3,000円はあり得ない。だって、社内規定には「1日5,000円+実費」って明記されているのだから。
私は新卒3年目。課長とは初の同行出張。
その違和感を口に出せる立場ではなかった。
レシート提出しても、返ってこない「実費」
一応、交通費や食事代のレシートはきっちり保存していた。
でも、提出しても彼がこう言うだけだった。
「これ、いったん俺がまとめて出すから。あとでまとめて戻ると思うよ」
……“戻る”なんてことは、結局一度もなかった。
駅ナカで買った1,000円の弁当も、取引先との昼食代も、私の自腹。
でも、課長は毎晩ビジネスホテルのバーでビールを2杯飲んでいた。領収書はすべて彼のポケットへ。
「あんた、もう慣れてきたでしょ」
ピンハネは習慣になっていた
3回目の出張のときだった。
「今回の手当、2,000円でよろしく。ホテルは部屋狭いけど我慢してね」
さすがにおかしいと思った。
しかも課長は駅前の高級ビジネスホテル。
私だけ、駅から20分歩く格安ホテル。
帰りの新幹線、私は席に座りながら、ふとレシートの裏にペンを走らせた。
「この領収書の合計は、課長のポケットに入りました」
私は淡々と、3回分の実費と規定手当のはずれ方を一覧にし、
その裏にこう書いた。
「このレシートのうち、私の口座に戻ってきた金額:0円
提出済みなのに返金なし。
規定では出るはずの出張手当も“会社が出さない”と偽られたまま。
ご確認をお願いします。」
そしてそのレシートを、“ある書類”と一緒に挟んだ。
社長直通の「お礼レター封筒」に、すべてを込めた
うちの会社では、出張後に社長へ「成果レター」を送る文化がある。
その専用封筒に、課長と同行した報告書を入れ、その中にこっそり“実態レシート”を添えた。
「大変学びの多い出張でした。
しかし、社内規定と実費精算の差異について、念のため確認させていただきたく…」
オブラート3重巻きで、刺すように書いた。
あとは知らん。どうなっても知らん。
金曜夜、社長から直電がかかってきた
出張レポートを出して5日後、なぜか社長直々に電話が来た。
私の心臓は破裂寸前。
「君が報告してくれた内容、ちゃんと確認したよ。
念のため人事と経理に精査させてもらうけど――ありがとう。勇気を持ってくれたね。」
その夜、Slackに1行だけ社内通知が入った。
「山野課長は、本日をもって人事異動となります。」
その1時間後、経理からメールが届いた。
「差額分の出張手当+実費、全額振込完了しました。大変失礼いたしました。」
ピンハネ課長がいなくなって、仕事が“楽”になった
あれから数ヶ月。出張は別の先輩と行くようになった。
ホテルも手当も規定通り。領収書も即日処理。
「当たり前」が、ようやく戻ってきた。
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