Share
昇進祝いに「すぐ辞めるだろ」と暴言の彼氏。目の前で退職届を叩きつけ“戦力外通告”[短編小説]

「課長昇進、おめでとう!」
入社して5年。がむしゃらに走り続けて、ようやく掴んだ念願の辞令でした。上司や同僚からの温かい祝福を受け、私の心は達成感と、これからのキャリアへの希望で満ち溢れていました。
この最高の瞬間を、一番に分かち合いたい相手はもちろん、2年間付き合っている彼氏の悠斗。私は少し奮発して、夜景が綺麗なレストランを予約しました。彼も「すごいじゃん!お祝いしよう!」と喜んでくれている。そう、信じきっていました。
あの瞬間までは。
祝福ムードを壊す、彼の心ない言葉
レストランに着き、乾杯を交わした直後から、私は違和感を覚え始めました。
「へぇ、課長か。でも、これから大変だろうな。俺との時間、ちゃんと作れるの?」
「マネジメントなんて、女の人には特にストレス溜まりそうだよな」
彼の口から出るのは、お祝いの言葉とは程遠い、水を差すような言葉ばかり。私は「大丈夫だよ。悠斗との時間も大切にするから」と笑顔で返しながらも、心の奥がチクリと痛むのを感じていました。
私が新しいチームの目標や、これから挑戦したいことを熱く語っても、彼はスマホをいじりながら気のない返事をするだけ。そして、私が頼んだ2杯目のシャンパンがテーブルに置かれた時、事件は起きました。
私が「新しい門出に!」ともう一度グラスを掲げると、彼は鼻で笑い、決定的な一言を放ったのです。
「どうせ管理職なんて大変なだけだし、お前には無理だよ。すぐ泣きついて『辞める』って言うのがオチだろ」
彼の本性と、私の”最後の決断”
シン、とテーブルの空気が凍りつきました。彼の言葉が、ナイフのように私の胸に突き刺さります。
私がどれだけこの日のために努力してきたか、彼は一番近くで見ていたはず。応援してくれていると信じていた相手からの、侮辱的すぎる言葉。ショックと悲しみを通り越し、私の頭は氷のように冷えていきました。
──そうか、この人は、私が成功するのが面白くなかったんだ。私のことを見下していたんだ。
全ての感情が、静かな怒りへと変わっていくのを感じました。涙は一滴も出ません。私はゆっくりとハンドバッグに手を伸ばし、中に入れていた手帳とペンを取り出しました。
「何してんの?」
怪訝な顔をする悠斗を無視して、私は手帳の新しいページを一枚、丁寧に破り取りました。そして、彼の目をまっすぐに見つめながら、そこにサラサラと文字を書き込んでいったのです。
これが私の「戦力外通告」です
私が書き終えたその紙を、悠斗の目の前にスッと滑らせる。彼は不思議そうにそれに目を落とし、そして、息を呑みました。
紙の中央には、力強い文字でこう書かれていました。
【戦力外通告書】
対象者: 悠斗様
通告事由: パートナーに対する著しいリスペクトの欠如、及び将来性の展望が見込めないと判断したため。
「…は? なんだよ、これ…」
呆然と呟く彼に、私は静かに、しかしはっきりと告げました。
「私の人生(チーム)に、あなたのポジションはもうありません。モチベーションを下げるだけのメンバーは必要ないの。今日付けで、あなたとの関係を“解雇”します。今までお疲れ様でした」
私は伝票を掴むと、自分の分だけの代金をテーブルに置き、スッと立ち上がりました。
「ちょ、待てよ!おい!」
背後から聞こえる彼の焦った声は、もう私の心には響きません。レストランの扉を開けた瞬間、ひんやりとした夜風が私の頬を撫で、なぜかとても心地よく感じました。
手に入れたのは、会社での新しい役職だけじゃない。くだらない男から解放され、自分の足で未来を歩いていくという、最高の“昇進”を手に入れた夜でした。
Feature
おすすめ記事