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二年前に『遠距離は無理』と終わった恋。帰省中に駅ホームで偶然再会した私たち【短編小説】

遠距離を理由に私を振った彼
『ごめん、やっぱり遠距離は無理だ。待てない』
二年前、大学時代から付き合っていた恋人の圭吾に、電話越しにそう告げられました。
就職で上京した私と、地元に残った彼。
たった数百キロの距離が、私たちの未来をいとも簡単に引き裂いたのです。
それから二年。
私はがむしゃらに仕事に打ち込みました。
彼を忘れるため、そして一人でも生きていける強い自分になるために。
先日のお盆のことでした。
久しぶりに実家へ帰省するため、新幹線を降りて、懐かしい駅のホームを歩いていました。
たくさんの帰省客でごった返す中、反対方向から歩いてきた人と、肩がこつんとぶつかります。
駅のホームで出会ったのは…
「すみません」と顔を上げた、その瞬間。私は、息を呑みました。
「……圭吾?」
そこに立っていたのは、二度と会うことはないと思っていた、圭吾でした。
彼もまた、私に気づき、驚きに目を見開いています。
人波を避け、私たちはホームの端へ。
気まずい沈黙の後、ぽつり、ぽつりと、お互いの近況を報告し合いました。
そして、彼が、ずっと言えずにいたであろう言葉を、絞り出すように口にしたのです。
「美月、あの時は、本当にごめん。…怖かったんだ。東京で、お前がどんどん綺麗になって、俺のことなんて忘れてしまうんじゃないかって。『遠距離は無理』だなんて、ただの言い訳だった。本当は、お前を繋ぎとめる自信がなかっただけなんだ」
彼の瞳が後悔に揺れていました。
私がずっと、自分への愛情が足りなかったのだと思っていた別れ。
その本当の理由は、彼の弱さと、自信のなさだったのです。
発車ベルが、ホームに鳴り響きます。
「…また、連絡しても、いいかな」
おずおずと尋ねる彼に、私は黙って頷きました。
私たちの未来がどうなるのかは、まだ分かりません。
でも、物理的な距離が引き裂いたはずの恋が、数年の時を経て、この場所で、また動き出そうとしている。二人の間を隔てていた心の距離が、少しだけ縮まったような、そんな気がした夏の日の再会でした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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