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「親が甘やかすからダメなんです」と言う担任。だが、家庭訪問で見たある部屋に言葉を失った【短編小説】
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正論を言う熱心な先生
息子の担任は、若くて熱心な先生です。
でも、少し熱心すぎるというか、自分の「正義」が強すぎる人でした。
「お母さん、また忘れ物です。親が甘やかすからダメなんです」
電話口で、あるいは面談で、彼はいつもその言葉で私を責めました。
彼の「教育論」はいつも正しく、私はいつも「ダメな母親」の烙印を押されました。
確かに、息子は最近、忘れ物が増えたり、授業中にぼーっとしていることが増えたようです。
「そうやって、お母さんが先回りして全部やってしまうから、お子さんが自分で考えなくなるんです。それは愛情ではなく、甘やかしですよ」
正論です。
正論ですが、私にはそうするしかなかったのです。
そんな中、担任が
「ご家庭の様子を拝見したい」
と家庭訪問に来ることになりました。
私は、また何を責められるのだろうと、朝から胃が痛い思いでした。
知らなかった先生
「お邪魔します」
先生は、まるで査定でもするような厳しい目で、玄関からリビングを見渡しました。
「息子さんの部屋はどちらですか」
促されるまま、私は息子の部屋に案内しました。
「ここです。どうぞ」
ドアを開けた瞬間、先生は
「失礼します」
と言いながら中に入りましたが、その部屋の「ある光景」を見て、ピタリと動きを止め、言葉を失ったのです。
そこは、息子の学習机とベッドが置かれた、子供部屋でした。
でも、その部屋の半分は、別のものが占領していました。
大きな介護用のベッド。
その横には、折りたたまれた車椅子。
そして、壁一面に積まれた、夫の仕事関係の専門書。
そう、この部屋は「息子の部屋」であると同時に、半年前、ここで息を引き取った「夫の部屋」でもあったのです。
夫が倒れてから亡くなるまでの間、私たちはこの部屋で、家族三人、川の字になって寝ていました。
息子が最近ぼーっとしているのも、忘れ物が増えたのも、大好きだったお父さんを失ったショックがまだ癒えていないからです。
そして私が先回りして持ち物を準備していたのは、「甘やかし」などではなく、まだ幼い息子が、たった一人で父親の死という現実と戦っている負担を、少しでも軽くしてあげたかったからです。
先生は、息子の学習机のすぐ隣に、まだ生々しく残る介護の痕跡と、私の悲しみの証拠を見比べて、立ち尽くしていました。
「親が甘やかすから」
彼がそう断じていたこの家は、甘やかしどころか、必死に今日を生きている母と子の、静かな戦場だったのです。
「……知りませんでした」
先生は、それだけを絞り出すと、深々と頭を下げました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。
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