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図書館で「ページをめくる音がうるさい」と言われた私。その人のスマホが大音量で鳴り響いた【短編小説】

図書館で言われたある一言
私の名前は彩香(あやか)です。
資格試験の勉強のため、休日の午後は近所の図書館で過ごすのが習慣でした。
静寂に包まれた空間で、参考書を黙々とめくる時間。
それが私にとって、何より集中できるひとときでした。
その日も、いつもの自習スペースで厚い専門書と向き合っていました。
ペンを走らせ一区切りつき、そっと次のページへ。その瞬間でした。
「すみません」
隣の席に座っていた初老の男性に、低い声で呼び止められました。
「ページをめくる音、少し響きますね。もう少し静かに願えませんか」
厳しい視線で、そう言われました。
「え…」
思わず声が漏れました。ページの音?
分厚い本ですが、自分では最大限、音を立てないように気をつけていたつもりです。
頭が真っ白になり、「も、申し訳ありません…」と謝るのが精一杯でした。
周りの視線を感じ、顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。
それからというもの、勉強がまったく手につきません。
一行読むたび、ページをめくるのが怖くなるのです。
息を止め、薄いガラスに触れるように、指先で慎重にページを持ち上げました。
しんと静まり返った図書館の空気が、やけに重く感じられます。
いきなり鳴り響く音の正体とは
そんな緊張が15分ほど続いたでしょうか。
突如、その静寂を切り裂き、大音量のメロディーが鳴り響きました。
少し懐かしいアップテンポな歌謡曲です。
皆の視線が一斉に音の発生源を探します。
音源は、なんと私に注意した男性のカバンの中からでした。
「うわっ!」
男性は慌てふためき、カバンの中を必死でかき回しています。
しかし焦るほどスマホは見つからないようで、陽気なメロディーは無情にも鳴り続けます。
ようやく音が止んだ時、彼の顔は耳まで真っ赤でした。
男性は、私の顔を見ることなく、荷物をまとめると逃げるように図書館を出ていきました。
残された空間には、少し和んだ空気が流れていました。
あれほど小さな音を指摘した人が、一番大きな音を立ててしまうなんて。
なんだか少し心が軽くなり、私はようやく、再び本の世界に集中できたのでした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。
※本コンテンツのテキストの一部は、生成AIを利用して制作しています。
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