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「うちの子の方が優秀だから」マウントママの発言→発表会当日に待っていた現実とは?【短編小説】

ピアノ教室にいたマウントママ
私の娘、楓が通うピアノ教室には有名な「マウントママ」の聡子さんがいます。
彼女の娘、玲奈ちゃんへの教育熱はあまりにも有名でした。
年に一度の発表会が近づいたある日のこと。
聡子さんは、私を呼び止め、勝ち誇ったような笑みを浮かべました。
「裕子さん、聞きました?発表会の順番。うちの玲奈、楓ちゃんの、少しだけ後に弾かせていただくことになったんですの」
発表会では、上手な子ほど、後の順番を任される傾向があります。
彼女は、続けました。
『やっぱり、うちの子の方が少しだけ優秀だから。先生も、そう判断してくださったみたいですわ』
娘同士を比べ、あからさまに優劣をつけたがる彼女の言葉。
私は、腹立たしい気持ちを抑え、「楓は、本人が楽しんで弾ければ、それで十分ですから」とだけ返しました。
そして、発表会当日。
娘の楓は、少しだけつまずいたものの、心の底から楽しそうな音色で、練習の成果を披露してくれました。私は、その姿に胸がいっぱいになりました。
そして、プログラムは進み、いよいよ玲奈ちゃんの出番という時です。
司会を務める鈴木先生が、マイクを握りました。
「それでは、本日のプログラムの最後を飾りますのは、望月玲奈ちゃんです。そして…」
先生は、そこで一度、言葉を切りました。
マウントママの正体
「本日は、玲奈ちゃんのお母様で、世界的なピアニストでいらっしゃる、望月聡子さんにも、特別に伴奏をお願いしております!」
会場が、どよめきに包まれました。スポットライトに照らされ、ステージに現れたのは、美しいドレスに身を包んだ、聡子さんでした。
そう、彼女は、ただの教育ママではなかった。
世界を舞台に活躍する、本物のプロのピアニストだったのです。
彼女が言った「うちの子の方が優秀」という言葉。
それは、私へのマウントというより、プロの音楽家としての、自分自身への、そして娘への、厳しすぎるプライドの表れだったのかもしれません。
母と娘が奏でる、息をのむほどに美しい連弾。
それは、私の知らない、あまりにもレベルの高い世界でした。
あの日の彼女を待ち受けていた「現実」。
それは、失敗や挫折などではありません。誰も入り込めないほどの、圧倒的な才能と、その世界で生きる者だけが知る、孤独なプレッシャーだったのです。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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