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彼『残業してた』→家計アプリ『高級イタリアン2名様』。一枚のレシートで彼の嘘が確定した【短編小説】

彼残業してた→家計アプリ高級イタリアン2名様一枚のレシートで彼の嘘が確定した短編小説

不自然な時間の記録

同棲を始めてから、私たちは家計管理アプリで収支を共有していました。

コンビニの買い物から外食まで、全てがリアルタイムで反映される便利なアプリです。

最初は節約のために導入したものでしたが、お互いの行動が透けて見えるようになり、少し窮屈さも感じていました。

そんなある日、眠れなくてスマホを開いた深夜2時、何気なくアプリを確認したときのことです。

目に飛び込んできたのは見慣れない店名。しかも、高級イタリアンレストラン。

私と行った覚えはありません。日付は昨日、時間は20時45分。彼はその時間、残業だと言っていました。

 

レシートの中身

翌朝、モヤモヤを抱えたまま彼を見送り、アプリに添付されたレシート画像を開きました。

そこには、2名分のディナーコース、ワインボトル、そしてデザートの記録が丁寧に印字されていました。

「仕事の接待かもしれない」そう自分に言い聞かせようとしました。

けれど、デザート欄に書かれた「アニバーサリープレート」の文字が、その可能性を一瞬で打ち消しました。接待でアニバーサリープレートなど、出すはずがありません。

 

嘘が崩れる音

その夜、帰宅した彼に何気なく尋ねました。「昨日の夜、どこにいたの?」

「残業してたよ」——あまりにも自然なその答えに、胸が冷たくなるのを感じました。私は黙ってスマホを差し出し、レシートの画像を画面いっぱいに表示しました。

彼は一瞬、呼吸を止めたように動きを止め、次に小さく笑おうとしましたが、その表情はすぐに崩れ、視線を逸らしました。

沈黙が重く、長く、部屋に漂いました。その沈黙こそが、すべてを語っていました。

 

その夜の決意

私はそれ以上何も言いませんでした。問い詰めても、もう答えは分かっているし、聞きたいわけでもありませんでした。

彼がシャワーを浴びている間に、机の引き出しから鍵を取り出し、自分の荷物をまとめ始めました。

深夜2時のレシート一枚が、私たちの関係を静かに終わらせました。便利すぎる家計アプリは、節約のためではなく、私に真実を突きつけるために存在していたのかもしれません。

玄関を出るとき、もう後悔はありませんでした。ただ、あの時スマホを見た自分にだけ、静かに「ありがとう」と心の中で呟きました。

 

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

 

 

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