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一人旅の途中で見つけた文庫本。そこにあったのは”あの日の彼”の名前と、ふたりだけの印【短編小説】

1人旅で拾った忘れ物
仕事の忙しさから解放されたくて、私は一人、ふらりと旅に出ました。
訪れたのは、古い街並みが美しい、とある地方の町。
穏やかな川沿いの道を、あてもなく散策していた時のことです。
ふと、川辺のベンチに一冊の文庫本がぽつんと置かれているのが目に入りました。
誰かの忘れ物でしょう。手に取ってみると、何度も読み返されたのか、表紙には味のあるシワが寄っています。
表紙に書いてある名前は…
交番に届けようかと思いましたが、その前にと表紙をめくってみました。
見返しには、丁寧な文字で『高橋 大樹』と名前が書かれています。
そして、名前の横には、丸で囲まれた星のマークが小さく添えられていました。
そのマークを見た瞬間、私の心臓がどきりと跳ねました。
それは、私が小学生の頃、転校するまでいつも一緒にいた幼馴染、大樹と私の間でだけ使っていた「秘密の合図」だったからです。
まさか。同姓同名の別人かもしれない。
でも、このマークまで一致するなんてことがあるだろうか。
私の静かな一人旅は、一瞬にして、淡い期待と緊張感に包まれました。
気づけば私は、そのベンチに座り、持ち主が戻ってくるのを待っていました。
本を抱きしめ、何度も川面と道の先を交互に見つめます。
本の持ち主との再会
三十分ほどが過ぎた頃でしょうか。一人の男性が、少し慌てた様子でこちらに早足で向かってくるのが見えました。
彼はベンチに近づくと、私が手にしている本を見て、はっとした表情を浮かべます。
その顔には、面影がはっきりと残っていました。
「……大樹?」
私の声に、彼は驚いて顔を上げ、私の顔をじっと見つめました。
そして、信じられないというように、ゆっくりと口を開きます。
「……もしかして、栞?」
十五年ぶりの再会でした。
彼もまた、私と同じように、一人旅でこの町を訪れていたのです。
彼が大切にしていたその本は、亡くなったお祖父さんの形見で、ずっとお守りのように持ち歩いていたものだと言います。
もし、私がこの本を拾わなかったら。もし、彼がこの本を忘れていなかったら。無数の偶然が重なって生まれた、奇跡のような再会でした。
その日の午後は、近くの喫茶店で、空白の十五年間を埋めるように、途切れることなくお互いの話をし続けました。
旅先で拾った一冊の本が、私の人生にとって、何よりも大切な宝物を見つけ出してくれたのです。
何気ない旅先での出会いが、人生の転機になることもあるのかもしれません。
あなたの旅にも、思いがけない奇跡が待っているかもしれませんね。
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【編集部注】
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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