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彼の浮気を暴いた“お揃いのマグカップ”。私が仕掛けた“完璧な罠”に、彼は声も出なかった【短編小説】

秘密の社内恋愛に影が差しました
彼氏の亮平と私は、同じ会社に勤めています。部署が違うため、二人の関係は社内では秘密にしていました。
最近、同部署の彩香と亮平が近すぎると感じる場面が増え、雑談に混じる親密さがどうにも胸に引っかかっていました。
マグカップの“仕様”が告げるサイン
ある日、亮平のデスクに見慣れないマグカップが置かれていました。シンプルで上品なそのデザインは、彩香が好きだと話していたブランドの新作に見えました。
その夜、私は早速ブランドサイトを確認し、息をのみました。それはオンライン限定の受注生産品で、二つ一組のペアでしか購入できないとのこと。
さらに、底には指定した二人分のイニシャルが焼き付けられる仕様で、単品販売は不可能でした。つまり、片方の持ち主がいれば、もう片方の持ち主も必ずいるということでした。
翌朝、亮平が席を外した隙に、マグカップの底をそっとのぞくと、小さく「R」のイニシャルが見えました。
お昼休みには、彩香のストーリーズに全く同じマグカップが映っており、底には「A」の刻印が。「やっと届いた」というキャプションとともに投稿されていました。
「RとA」。この瞬間、すべてのピースが揃い始めたのを感じました。
罠を張った
始業前、私は自分のデスクにノートPCを開いたまま置きました。画面には、あのブランドの注文フォームが表示されています。
二人分のイニシャルを入力する欄に、試しに「R & N」と打ち込んで保存しておきました。ペア購入しかできないことを彼に一目で示すためです。
午後、亮平が私の席に来ました。私は何も言わず、PCをくるりと彼へ向けました。
「このマグカップ、ペアでしか買えないんだって。二つのイニシャルを指定する仕様、知ってた?」
亮平の視線が画面に吸い寄せられるのが分かりました。私は言葉を続けました。
「あなたのマグカップ、底は『R』だよね。片割れは『A』? 単品じゃ買えないのに『R』だけがここにある理由、説明できる?」
“お揃い”が示した結末
空気が冷え切りました。亮平は言葉を失い、喉がわずかに動いただけでした。
もし否定するなら、マグカップの底を見せればよかったはずです。しかし、受注生産の「ペア限定」という事実が、彼から言い逃れの余地を完全に奪っていました。
本来なら恋人同士で持つはずのお揃いのマグカップは、私と亮平ではなく、亮平と彩香の“ペア”であることを、はっきりと告げていたのです。
最後に
マグカップの「仕様」が、彼の嘘を暴きました。感情に流されず、動かしようのない条件や手順に目を向けることで、言葉よりも確かな答えにたどり着けることを、今回の件で私は痛感しました。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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