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彼の“金欠”の謎、全て解けた。ジャケットから見つけた1枚のレシートが、地獄の始まりだった【短編小説】

彼氏の口癖が始まりでした
「あーあ、今月もクレカの請求やばいんだよね。しばらく節約しないとな」
同棲している彼氏、浩一の最近の口癖でした。
それを聞くたびに、私は「じゃあ今週末はお家でゆっくりしようか」「外食も少し控えようね」と提案し、彼のために健気に節約を心がけていました。
彼の負担を少しでも軽くしてあげたい、その一心でした。
ポケットから出てきた謎のレシート
異変に気がついたのは、彼のジャケットをクリーニングに出そうとした時です。
ポケットを探ると、一枚のレシートが出てきました。
日付は、彼が「急な仕事で徹夜になった」と言っていた先週の金曜日。
都内のお洒落なレストランの名前と、「2名様」という文字、そして私には見慣れない高額な金額が印字されていました。
胸がざわつきましたが、その時は「会社の経費で落ちる食事会だったのかも」と自分に言い聞かせました。
しかし、それからでした。
まるで何かに導かれるように、私の目に“誰の分かわからない領収書”が次々と飛び込んでくるようになったのです。
彼が脱ぎ捨てたスーツのポケットから。本棚に挟まれたまま忘れられていたもの。車のダッシュボードの奥から。
二人分の映画のチケット。私が行きたがっていた水族館のペア入場券。女性もののアクセサリーを買ったであろう、ジュエリーショップの領収書。
そのどれもが、私との思い出ではありませんでした。
日付は決まって、彼が「残業」や「同僚との飲み会」だと言っていた日。
私は怒りや悲しみを通り越して、不思議と冷静になっていました。
見つけるたびに、その一枚一枚を丁寧に伸ばし、クローゼットの奥に隠した空き缶に、静かに貯めていきました。
運命の日、待っていたあの”口癖”
そして、運命の日はやってきます。給料日後の週末、浩一はまたいつものように大きなため息をつきました。
「クレカの請求、やっぱりやばいわ。本当に何に使ったんだろうな、俺」
その言葉を待っていたかのように、私は静かに立ち上がり、クローゼットからあの缶を持ってきました。
彼の目の前のローテーブルに、缶の中身をすべて、逆さまにしてぶちまけました。
カサカサと乾いた音を立てて、数えきれないほどの領収書がテーブルに広がります。
浩一の顔から、さっと血の気が引いていくのが分かりました。
「請求、やばいみたいだね。誰の分かわからないけど、あなたが忘れていった領収書、全部ここに保存しておいたよ」
私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていました。
彼は、まるで時間が止まったかのように、テーブルの上の紙切れと私の顔を交互に見つめるだけ。
もう、何も言う必要はありませんでした。
彼の金欠の理由は、私を裏切るための出費だったのですから。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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