Share
「検診センターは楽」と見下す友人。患者さんの一言で、私の仕事が“誇り高い仕事”だと気づいた話【短編小説】

「美咲は定時で帰れていいよね、楽でしょ?」
急性期病棟で働く友人から、ビデオ通話越しに言われた何気ない一言。私は「まあね」と笑顔で返しながらも、心の中では泣きそうになっていました。
病棟の激務に心身ともに疲れ果て、検診センターに転職して1年。確かに、残業はなく、週末はしっかり休める生活です。
でも、私の毎日は、採血、血圧測定、心電図…その単調な業務の繰り返し。ベルトコンベアの上を流れていく部品のように、次々と受診者さんをこなしていく日々に、私は焦りを感じていました。
「もう注射、下手になってるんじゃないの?」
「看護師としてのスキル、忘れちゃいそうだね」
友人たちの冗談めかした言葉が、私の不安を的確に突き刺します。
「私、このままでいいのかな…」
「看護師としてのキャリアが、ここで終わってしまうんじゃないか」
そんな焦りから、「辞めたい」という気持ちが、日に日に大きくなっていました。
流れ作業だと思っていた日々に訪れた、小さな奇跡
そんなある日のこと。私は、毎年検診に来ているという、にこやかな高齢の女性を担当しました。
「はい、腕の力抜いてくださいねー。ちくっとしますよ」
いつものように、流れ作業で採血をしようとした、その時でした。
「あなた、本当に採血が上手ねぇ」
女性は、私の顔をじっと見て、優しく微笑みかけました。
「去年もあなただったけど、全然痛くなかったのよ。だから、今年もあなただといいなって思ってたの。ありがとう」
その言葉に、私はハッとしました。流れ作業だと思っていた、この毎日。単調な業務だと諦めていた、この仕事。
それは、誰かにとっては「年に一度の、安心できる時間」に繋がっていたのです。
私のささやかな技術が、誰かの記憶に残り、感謝されていた……。その事実に、堪えていた涙が溢れそうになりました。
私が見つけた、新しい悩みと希望
その日を境に、私の仕事への意識は少しずつ変わっていきました。これはただの作業ではない。病気を未然に防ぐ「予防医療の最前線」なのだと、自分の仕事に誇りを持てるようになったのです。
でも、不思議なことに、やりがいを見出したからこそ、新たな欲が生まれてきました。
「この経験を、次にどう活かせるんだろう?」
「他のセンターで働く看護師さんや、ここから新しい道に進んだ先輩たちは、一体どんな風に考え、キャリアを築いていったんだろう?」
今の仕事に、誇りは持てた。でも、「辞めたい」という気持ちが完全に消えたわけではありません。もっと違う働き方があるかもしれない。もっと輝ける場所があるかもしれない。
一人で悩んでいても、きっと答えは見つからない。同じように、検診センターで悩み、そして自分の道を見つけた先輩たちの、リアルな声を聞いてみたい。私は、心の底からそう思うようになったのです。
あの日、患者さんがかけてくれた一言は、流れ作業だと思っていた私の仕事に、確かな光を灯してくれました。検診センターの仕事は、予防医療という大切な役割を担う、誇り高い看護なのだと気づけたのです。
でも、だからこそ、私は今、改めて自分のキャリアと向き合っています。この経験を次にどう繋げるべきか。他のセンターで働く看護師さんや、ここから新しい道に進んだ先輩たちは、どんな風に考え、行動したのでしょうか。
もし、私と同じように「このままでいいのかな」と少しでも感じているなら、一人で抱え込まずに、先輩たちの声に耳を傾けてみるのが良いのかもしれません。きっと、そこには未来を照らすヒントが隠されているはずです。
▼こちらの記事もおすすめ
「検診センターの看護師を辞めたい 」先輩看護師にインタビューして聞いてみた
【編集部注】
本記事は、看護師のキャリアをテーマにした創作の小説であり、登場する人物や団体、出来事はすべて架空のものです。記事内で描かれている主人公の経験や心境の変化は物語上の演出であり、特定のキャリアパスを推奨するものではありません。
Feature
おすすめ記事