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生活費は出世払いで!って言った彼、気づけば117万円を負担…”現実払い”させる為に取った彼女の行動とは?【短編小説】

「生活費は“出世払い”って言った彼、今も無職です。」
「なあ、もし俺が社長になったらどうする?」
付き合い始めて半年、同棲の話が出た頃に、彼――達也がそう聞いてきた。
「うーん、毎日豪華ディナーお願いしよっかな?」
そう冗談を返した私に、達也は満面の笑みで言った。
「そのときは、全部お前に返すからさ。生活費とか、全部“出世払い”で頼むわ!」
笑いながら、乾杯したグラスがカチンと鳴った。
私はその音を、希望の鐘だと思っていた。
同棲生活スタート。最初は、夢があった
達也は当時、ベンチャー系の営業職。
歩合制で波はあるけど「夢がある」と、目をキラキラさせていた。
私は大手企業の事務職。地味だけど安定。
「俺が稼げるようになるまで頼むわ」って、彼に頼られることが少し誇らしかった。
家賃10万、水道光熱費2万、食費3万、交際費もろもろ入れて月18万。
最初のうちは、「今月ちょっと厳しくてさ」の一言で、私が全額出していた。
でも、数ヶ月経っても、“ちょっと厳しい”は続いた。
「起業する」って言った彼が、最初に買ったのはゲーミングチェアだった
営業の仕事を辞めたのは、同棲して4ヶ月目。
理由は、「上司がクソだった」から。
「今度は自分でビジネスする。俺にはその器があると思うんだ」
私の職場で疲れて帰宅した夜、彼はカタカタとMacBookを叩きながら、やたら未来の話ばかりしていた。
「まずは環境から整えないと」
と言って届いたのは、6万円のゲーミングチェアと、4万円のデュアルモニター。
請求はもちろん、私のクレジットカード。
「前払い」の名のもとに、私の貯金は蒸発した
仕事もしていないのに、カフェでの“作業”にこだわる彼。
「インプットも必要だから」と言って、ビジネス書を大量に買い込み、読んだ感想は「タイトルが良かった」の一言だけ。
1年後、通帳残高は数千円にまで減っていた。
それでも達也は、
「絶対に返すから」
「俺、本気でやるから」
「今が踏ん張りどきなんだよ」
その言葉を信じてきた私がバカだった。
限界を迎えたのは、電気が止まった日だった
冬の朝、寒さで目が覚めた。
照明がつかず、エアコンが沈黙し、冷蔵庫の中がぬるくなっていた。
電気代が払われていなかった。私のカードは、限度額いっぱい。
それでも達也は言った。
「こんなの一時的だよ。むしろ今、ブレイクスルーの時期だから」
じゃあ、その“ブレイクスルー”とやらで、電気つけてみろよ。
私は静かに、限界を迎えた。
私が選んだ、最終手段は“個人請求書”だった
冷静に、今までの家計をまとめた。
Excelに、達也が払ってこなかった家賃、光熱費、食費、家具代、小遣い、機材、そして“夢への投資”の全記録。
合計…117万4200円。
私はそれをPDFにして、プリントアウトし、彼の実家へ送った。
送り状には一筆。
「“出世払い”という約束のもと、現在まで生活を支えてまいりましたが、これ以上は一人で抱えることが難しくなりました。
達也さんの今後の生活について、ご家族としてご相談させていただければ幸いです。」
その日の夜、達也のスマホが鳴り響いた
「ちょっ、なんで親に言うんだよ!?」と怒る彼に、私はこう言った。
「“出世払い”って言ってたよね?
そろそろ、誰かが“出世するまでの生活費”を払ってくれないと、私が破産するの」
達也は黙った。
数分後、彼のスマホからお母様の怒鳴り声が響く。
「アンタなにやってんのよ!人の娘に恥かかせて!」
その週末、達也は実家に“出荷”された
翌朝、彼は荷物をまとめて家を出た。
「起業とかじゃなくて、とりあえず正社員になれってさ…親がさ…」
その言葉を聞いたとき、私はなぜか笑ってしまった。
彼が出ていった部屋は、急に静かで、寒かったけど
心は、信じられないほど、あたたかかった。
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