BY GLAM Editorial

婚約者の親の“手術費用”300万は嘘だった。結婚詐欺師から全額を合法的に取り返した方法[短編小説]

INDEX

些細な綻びから見えた、彼の”本当の顔”
泣き寝入りはしない。「合法的」な復讐計画
「詐欺師」に突きつけた、最後通牒
全額奪還。そして、さようなら

「サヤカ、お願いだ…君しか頼れないんだ」

1年間、真剣に愛を育んできた婚約者のリョウが、私の前で崩れるように泣き始めました。ハンサムで、いつも自信に満ち溢れていた彼の、初めて見る弱い姿。理由を尋ねると、彼は震える声でこう言いました。

「母親が…、急病で倒れたんだ。すぐにでも手術が必要だけど、保険適用外の最新治療で、どうしても300万円足りないんだ…！」

未来の家族になる人。そのお母さんの命がかかっている。疑う余地など、私にはありませんでした。結婚資金として、そして自分の将来のためにと、必死に貯めてきたなけなしの貯金。それが300万円でした。

私は迷わず、その全額を彼に手渡しました。「ありがとう、サヤカ。君は命の恩人だ。必ず返すから」と涙ながらに感謝する彼を見て、私は「愛する人を救えたんだ」と、むしろ誇らしい気持ちでいました。

些細な綻びから見えた、彼の”本当の顔”

お金を渡してから数日後。私は、リョウの言動に些細な違和感を覚え始めました。お母様の容態を尋ねても、「まだ集中治療室で…」「面会謝絶なんだ」と、どこか歯切れが悪いのです。

決定的な疑惑が生まれたのは、偶然見たリョウの弟のSNS投稿でした。

そこには、「週末、家族みんなで温泉旅行！」というコメントと共に、病気のはずのお母様が、満面の笑みで写っていたのです。撮影日は、リョウが「術後の経過が良くない」と私に語っていた、まさにその日でした。

血の気が引きました。震える手で、リョウが言っていた病院に電話をかけ、彼の母親の名前を告げて入院の事実があるか尋ねると、返ってきたのは「そのような患者様はおりません」という非情な答えでした。

嘘だ。全部、嘘だったんだ。

愛も、心配も、私の善意も、すべてが彼にとっては300万円を手に入れるための”芝居の小道具”に過ぎなかった。涙は出ませんでした。裏切られた悲しみは、静かで冷たい怒りへと変わっていきました。

泣き寝入りはしない。「合法的」な復讐計画

感情的に彼を問い詰めても、きっと逃げられるだけだ。私はすぐに気持ちを切り替え、法律の専門家、つまり弁護士に相談することにしました。泣き寝入りする気など、もう毛頭ありませんでした。

弁護士の先生は、私の話を冷静に聞いた後、明確な指示をくれました。

「これは悪質な詐欺です。取り返すために、まずは彼が『嘘の理由で、お金を借りた』という動かぬ証拠を集めましょう」

作戦は、冷静かつ慎重に進められました。

まず、私はリョウに「今後のためにも、きちんと書面で残しておきたいの」と笑顔で切り出し、「母の手術費用として、300万円を借りました」という一文を入れた借用書にサインさせました。彼は、私が何も気づいていないと信じ込み、油断してそれにサインしました。

次に、彼との会話を小型のボイスレコーダーで録音。「お母様の手術、大変だったね」「300万円、必ず返してね」と、彼に「手術」という嘘と、「借金」の事実を、改めてその口から語らせたのです。

「詐欺師」に突きつけた、最後通牒

借用書と、録音データ。完璧な証拠を揃えた私は、それを弁護士の先生に託しました。

数日後、先生は「内容証明郵便」をリョウに送付。それは、法律に基づいた、彼への最後通牒でした。

手紙の内容は、こうです。

貴殿は「母親の手術費用」という虚偽の事実を告げ、金300万円を騙し取りました。これは刑法の詐欺罪に該当する悪質な行為です。
つきましては、本書面到着後7日以内に、金300万円を全額返済するよう要求します。
期限内に返済がなされない場合、民事での貸金返還請求訴訟、及び、警察への詐欺罪での刑事告訴の手続きを、直ちに開始いたします

民事だけでなく、「刑事告訴」という言葉。つまり、前科がつき、刑務所に入る可能性を示唆したのです。これが、彼の人生を終わらせる、決定的な一撃でした。