思い出のレストランが静かな修羅場と化した日。婚約者の完璧な嘘を暴き、私は自由を手に入れた【短編小説】

完璧だったはずの彼に感じた、小さな違和感

「咲良、本当に綺麗だよ。君と結婚できるなんて、俺は世界一の幸せ者だ」

当時、婚約者だった樹さんは、いつも甘い言葉で私を喜ばせてくれる、まさに理想の男性でした。
誰もが羨むような彼との結婚を控え、私の毎日は幸せの絶頂にあるはず…でした。

しかし、心のどこかで小さな棘が刺さったような、些細な違和感が消えなかったのです。

きっかけは、彼が「大事な海外研修がある」と、一週間日本を離れた時のことでした。
応援したい気持ちとは裏腹に、彼の荷物があまりに少ないことや、出発前に見せた一瞬の動揺が気にかかりました。
それでも「彼を信じなくちゃ」と自分に言い聞かせていた矢先、友人から一本の連絡が入ったのです。

「ねえ、今、駅前のカフェに樹くんいない…？」

友人が送ってきた写真には、研修で海外にいるはずの彼が、見知らぬ女性と親しげに笑い合う姿がはっきりと写っていました。
血の気が引くと同時に、今まで見て見ぬふりをしてきた点と点が、一本の黒い線で繋がっていくのを感じました。

偽りの愛に、さよならを

私は冷静に、そして慎重に準備を進めました。
彼が帰国する日に合わせ、二人の思い出のレストランを予約したのです。

何も知らない彼は「寂しかったよ」なんて言いながら、私の手に優しく触れてきます。
その手を振り払いたい気持ちをぐっと堪え、私は静かに切り出しました。

「研修、お疲れ様でした。海外はどうだった？」

彼が待ってましたとばかりに、ありもしない海外の思い出を語り始めた時、私はテーブルの上にあの写真を置きました。
彼の顔から、すっと表情が消えていく瞬間を、私は一生忘れないでしょう。

「これは…、これは何かの間違いで…」

「間違いなんかじゃない。あなたの嘘も、もう聞き飽きたよ」

震える声で言い訳を重ねる彼を遮り、私ははっきりと別れを告げました。
レストランを出た瞬間、あれほど重くのしかかっていた不安や悲しみは消え去り、代わりに涙が出るほどの解放感が全身を包みました。

彼の嘘を暴いたあの日、私は確かに一度、未来を失いました。
でも、それは偽りの未来でした。今、私は自分の足で立ち、自分の力で新しい未来を歩み始めています。

空はどこまでも青く、私の未来は、あの日の空よりもずっと明るい光に満ちています。

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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