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亡き娘の日記。最後のページに書かれていた、母への感謝と『たった一つの嘘』とは【短編小説】

亡き娘の日記最後のページに書かれていた母への感謝とたった一つの嘘とは短編小説

 

愛する娘を突然失ってから、私の時間は止まったままだった。あの子の部屋に入るたびに胸が締め付けられるようで、なかなか片付けられずにいた。そんなある日、ベッドの下から一冊の古い日記帳を見つけた。あの子が高校生の時に使っていたものだ。震える手でページを開いた私は、そこに書かれていた文字を、そっと指でなぞった。

娘が隠し続けた、病との闘い

日記には、私の知らない娘の姿が綴られていた。明るく振る舞っていたあの子が、影でどれほど苦しんでいたか。病の診断を受けたこと、治療の辛さ、将来への不安。それらを、私には一切悟られないように、日記の中でだけ吐き出していたのだ。私は知らなかった。隣で笑っていたあの子が、毎晩一人で泣いていたことを。知っていたつもりだったのに、私は何も分かっていなかった。悔しさと自責の念で、涙が止まらなかった。

最後のページに書かれていた、たった一つの嘘

嗚咽を漏らしながら、私はページをめくり続けた。そして、最後のページにたどり着く。そこには、震えるような文字で、私への感謝の気持ちが綴られていた。「お母さん、今まで本当にありがとう。お母さんの娘で、心から幸せだったよ」。そして、その文章の最後に、たった一行、こう書かれていた。「辛くなかったよ。痛みも全然なかったから、安心してね」。

その言葉を読んだ瞬間、私の涙は止まった。そんなはずはない。医者は、病状が進行するにつれて痛みが増すことを言っていた。あの子は、最期まで私を悲しませないように、私を守るために、たった一つの優しい嘘をついてくれたのだ。

日記をそっと閉じ、私は胸に抱きしめた。あの子は最後まで、私に心配をかけまいと、一人で戦い抜いてくれた。私の知らないところで、あの子はこんなにも強く、そして優しくなっていた。娘がくれた、この“たった一つの嘘”が、私をこれからも生かしていくのだろう。

 

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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