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「この顔にしてください」19歳少女の瞳の奥に見た『深い闇』。美容外科看護師の罪悪感【短編小説】

この顔にしてください19歳少女の瞳の奥に見た深い闇美容外科看護師の罪悪感短編小説

 

「先生、この顔にしてください」

私が勤める美容外科クリニックの診察室。19歳の彼女が、スマホの画面を医師に見せました。そこに映っていたのは、今をときめくインフルエンサーの顔。彼女の目は、憧れと、何かに突き動かされるような焦燥感に満ちていました。「この子の鼻筋と、この子の涙袋…ぜんぶを足して、私になりたいんです」

医師は慣れた様子でカウンセリングを進めますが、隣に立つ私の胸には、拭えない違和感が広がっていました。彼女の骨格やパーツを無視した、あまりにも無謀なオーダー。そして何より、彼女の心に巣食う、他人の評価に怯える闇が透けて見えたのです。

プロとしての務め、そして拭えない罪悪感

彼女は言いました。「この顔になれたら、きっと好きな人に振り向いてもらえるから」。その言葉を聞いたとき、私はプロとしての務めと、個人的な感情の間で引き裂かれるような思いでした。私たちは、お客様の願いを叶えるのが仕事です。しかし、彼女の「幸せになりたい」という切実な願いの裏に隠された、他人の評価に依存する脆い心を、私は見過ごすことができませんでした。

「本当の美しさは、外見だけじゃない」。そんな綺麗事では彼女の心は救えない。でも、今の彼女のまま手術台に送ることは、私には“罪”を犯しているように思えたのです。彼女の純粋な顔にメスを入れ、彼女が本当に望むものを手に入れられないまま、自己肯定感をさらに下げてしまうのではないかという恐怖。それが私の罪悪感の正体でした。

彼女に伝えた、たった一つの真実

カウンセリング後、待合室に戻った彼女に、私は意を決して声をかけました。高校時代、容姿にコンプレックスを抱き、毎日泣いていた自分の過去、そして美容医療を学ぶ中で、「自分らしさ」の尊さに気づいた経験を、少しだけ話しました。「誰かの『完璧』になる必要はないんだよ。あなたは、あなたのままで十分美しいよ」

私がそう伝えると、彼女の大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれました。彼女は少しだけ心を許してくれたのか、話してくれました。「実は、最近彼氏に振られたんです。LINEで『お前の顔、タイプじゃない』って…もう、自分を否定されたみたいで」と、震える声で打ち明けてくれました。

私は何も言わず、ただ静かに彼女の背中をさすりました。数日後、彼女は「もう少し自分と向き合ってみます」と予約をキャンセル。私は安堵と同時に、この仕事に携わる者としての責任感を改めて感じました。彼女の心に少しでも光を灯せたのなら、この経験は無駄ではなかったのだと信じています。

 

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本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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