エンジン音を響かせ高級車を見せびらかしていた隣人。数年後には売却し、自転車姿に変わった【短編小説】

隣人の高級車自慢

私の隣に住んでいる高橋さん一家。ご主人がまあ、見事なほどの自慢好きで、特にその対象となっていたのが、ピカピカの黒い高級外車でした。

週末になると、これ見よがしに洗車を始め、私や夫の田中が通りかかると、必ず声をかけてくるのです。

「いやぁ、田中さんの車もいいですけど、やっぱりこの滑らかなフォルムは違いますよねぇ！エンジン音も芸術的なんですよ」

聞いてもいない車の性能を熱弁し、満足そうに車体を撫でるのがお決まりの光景でした。正直、私たちは車にそこまでこだわりがないので、いつも愛想笑いでやり過ごしていました。

しかし、駐車場でわざと大きな音でエンジンをふかしたり、私たちの車の真横にぴったりと停めてきたりと、その自慢は少し迷惑なレベルにまで達していたのです。

隣人が自転車通勤になったワケ

そんな日々が数年続いたある日のこと。

ふと気づくと、いつも高橋さんの定位置にあったはずの黒い高級車がありません。

最初は旅行にでも出かけたのかと思っていましたが、一週間、二週間経っても戻ってくる気配はありませんでした。

そしてある朝、ゴミ出しをしていると、なんと高橋さんが汗だくで自転車を漕いでいる姿を見かけたのです。

高そうなスーツは着ていますが、慣れない自転車に息を切らしていて、以前の余裕しゃくしゃくの姿は見る影もありません。

私と目が合うと、高橋さんは気まずそうにサッと視線を逸らし、会釈だけして走り去っていきました。

あれだけ自慢していた車をどうしたのか、私たちが聞くことはありません。ですが、あの背中が全てを物語っているようでした。

見栄を張ることの虚しさを、少しだけ考えさせられた出来事です。

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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