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昔の友人に「センスない」と馬鹿にされた私。→数年後、その人が私の店に並んでいた【短編小説】

昔の友人にセンスないと馬鹿にされた私→数年後その人が私の店に並んでいた短編小説

手作りお菓子をバカにする友人

『菜々の作るお菓子って、素人っぽいよね。悪いけど、センスないと思う』

大学時代、趣味でお菓子作りをしていた私に、当時友人だった玲香が放った一言です。
有名パティシエの、華やかなケーキしか認めない彼女にとって、私が作る素朴な焼き菓子は、ただ野暮ったく見えたのでしょう。

パティシエになるという私の夢を、彼女は「センスない」の一言で、一笑に付したのです。
その悔しさは、何年経っても、私の心の奥に小さな棘のように残っていました。

それから数年後。

私は、あの頃の夢を叶え、世田谷の住宅街に、小さな焼き菓子店をオープンしました。
派手さはないけれど、素材の味を大切にした、温かいお菓子。
そんな私の店の評判は、少しずつ口コミで広まっていきました。

最近では、雑誌に取り上げられたこともあり、週末には店の外にまで行列ができるほどの人気店になったのです。

ある土曜日の午後でした。

いつものように行列ができていたその日、私は接客の手伝いのために、厨房から顔を出しました。
そして、列に並ぶお客さんたちを眺めていた私の目は、ある一点で、釘付けになりました。

店に並んでいたのは…

嘘でしょう。玲香でした。

彼女が、私の店の前に、並んでいる。
スマホを見ながら、楽しそうに友人とお喋りしています。
まさか、店のオーナーが、かつて自分が見下した、あの菜々だとは、夢にも思っていないのでしょう。

やがて、彼女の番が来ました。
ショーケースをうっとりと眺めながら彼女は言います。

「すみません、このタルトと、クッキーの詰め合わせをください」

そして、代金を支払うために顔を上げた彼女と、レジに立つ私の目がぴったりと合いました。

玲香の顔が、驚きと、混乱と、そして、深い羞恥に固まっていくのが、スローモーションのように見えました。

私は、何も言いませんでした。
ただ、最高の笑顔で、店主としてこう告げたのです。

「ありがとうございます。1800円になります」

彼女が「センスない」と馬鹿にしたお菓子は、今や、彼女がお金を払ってでも、行列に並んででも、食べたいお菓子になりました。

私の夢を笑った彼女への、これ以上ない、甘くて香ばしいリベンジが、静かに、そして完璧に、成し遂げられた瞬間でした。

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

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