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夫の親戚に「子どもを産めないなら意味がない」と言われた私。→数年後、介護を頼まれた話【短編小説】

私の価値観を否定してくる叔母
夫の浩平と結婚して数年、私たち夫婦には子どもがいませんでした。
二人で築く穏やかな暮らしに、私は満足していました。
しかし、世間の目は、必ずしも優しくはなかったのです。
忘れもしない、数年前のお正月の親戚の集まりでのこと。
夫の叔母である典子さんが、私を手招きし、聞こえよがしに言いました。
『聡子さん、まだなの?女はね、子どもを産んで一人前。それができないなら、浩平のお嫁さんとしての意味がないんじゃないかしら』
その言葉は、鋭い刃物のように、私の心を深く傷つけました。
「意味がない」。私の存在価値は、ただそれだけで、決めつけられてしまったのです。
その日を境に、私たちは典子さんとは距離を置くようになりました。
突然かかってきた電話
そして、先日。
その典子さんから、数年ぶりに電話がかかってきました。
聞けば、少し前に体調を崩し、一人での生活が難しくなったとのこと。
息子たちは、仕事や家庭があるからと、誰も典子さんの面倒を見たがらないと。
彼女は、しばらく口ごもった後、信じられない言葉を続けました。
『…それでね、聡子さん。大変ずうずうしいお願いなのだけど、しばらくの間、私の身の回りの介護を、お願いできないかしら…』
耳を疑いました。
子どもを産むことこそが女の価値だと、私を「意味がない」と断じた彼女が、その自慢の息子たちには頼れず、今、私に助けを求めている。
これほど、皮肉なことがあるでしょうか。
私は怒りよりも、静かで、冷たい感情が心に満ちていくのを感じました。
叔母に伝えた私の意思
「典子さん。お体のことはお察しします。でも、私たち夫婦には、私たちの人生がありますので」
私のきっぱりとした声に、彼女は息を呑んだようでした。
「ご自身の息子さんたちと、よく相談なさってください。残念ですが、私たちがお手伝いすることはできません」
そう言って、私は静かに電話を切りました。
子どもを産めない私は、彼女にとって「意味のない嫁」だったのでしょう。
でも、だからこそ、彼女の介護をする「意味」も、私には、一切ないのですから。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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