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旅行会社で働く私→窓口に来たカップルが選んだのは、両親が新婚旅行で訪れた町だった【短編小説】

旅行代理店に来たカップル
旅行代理店のカウンターで働く私、史織の仕事はお客様の「幸せな時間」を形にすることです。
毎日、様々な方の旅への夢やときめきに触れられるこの仕事が、私は大好きでした。
ある日の午後、私の窓口に、一組の若いカップルが訪れました。
健太さんと梨花さん。
初めての二人旅を計画しているのだと、少し緊張しながらも、幸せそうに微笑む姿がとても微笑ましく思えました。
「どこか、おすすめの場所はありますか?」
お二人の希望を聞き、私は定番の観光地やリゾート地のパンフレットをいくつか広げました。
しかし、お二人はどうもしっくりこない様子。
しばらく悩んでいた健太さんが、ふと、カウンターの隅に置かれていた、一枚の小さなパンフレットを指差しました。
それは、スイスのとある湖畔の町の案内でした。
スイスの湖畔、ここは実は…
その瞬間、私は息を呑みました。
その町は、私の両親が三十年以上前に新婚旅行で訪れた、思い出の場所だったからです。
幼い頃から、色褪せたアルバムで何度も見た光景が脳裏に蘇ります。
美しい湖を背景に、幸せそうに寄り添う若き日の父と母。
それは、私にとって家族の幸せの原風景のようなものでした。
私はいつもの営業トークではない、自分の言葉で話し始めていました。
「実は…そこは、私の両親が新婚旅行で訪れた町なんです」
父と母から聞いた、小さなホテルのこと、美味しいチーズフォンデュのこと、美しい風景のこと。
私の話に、健太さんと梨花さんは、目をきらきらさせながら熱心に耳を傾けてくれました。
「素敵ですね。私たちも、そんな旅がしたいです」
そう言って、お二人は行き先をその町に決めました。
予約の手続きをしながら、私は不思議な感動に包まれていました。
三十年前の両親の幸せな記憶が、時を超えて目の前の若いカップルへと、まるでバトンのように手渡されていく。
そんな奇跡の瞬間に、自分が立ち会えているような気がしたのです。
その日の夜、私は久しぶりに実家に電話をかけこの出来事を話しました。
電話の向こうで嬉しそうに笑う両親の声を聞きながら、人の幸せな記憶を繋いでいく、この仕事の素晴らしさを、改めて感じていたのでした。
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【編集部注】
本記事は、旅行代理店を舞台にした創作の小説であり、登場する人物や出来事はすべて架空のものです。
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