Share
マッチングアプリで会った退屈な男。彼の『地味すぎる投資』を実践したら、5年でFIREした【短編小説】

「タイプじゃないな、ごめんなさい」
マッチングアプリで出会った雄太という男を、私は3回も断った。プロフィール写真は地味で、メッセージの内容も面白みに欠ける。キラキラした同世代の男性と比べると、あまりにも冴えなかった。それでも彼は、私の返信が途切れると「また時間がある時に話そうね」と、諦めずに連絡をくれた。
当時、私は仕事に不満を抱え、漠然と「もっと良い暮らしがしたい」と焦っていた。華やかなキャリアを夢見て上京したのに、現実は給料も上がらず、貯金も増えない。そんな私にとって、雄太は「将来」を感じさせる相手ではなかった。結局、3度目の誘いに渋々応じたのは、他に会う予定がなかったからだ。
彼がくれた、地味な”成功”へのチケット
喫茶店で会った雄太は、プロフィール写真以上に朴訥とした男だった。会話も特別盛り上がらない。しかし、私の仕事の愚痴や将来への不安を、彼は真剣な眼差しで聞いてくれた。そして、意外なことを口にしたのだ。
「美咲さんがもし将来の不安をなくしたいなら、今日からでもできる“地味な投資”をやってみない?」
彼は、毎月コツコツと少額を積み立てる投資信託について、丁寧に説明してくれた。華やかな大儲けの話でもなく、リスクを冒すような話でもない。ただ、「将来の不安をなくすための、地道な一歩」だと。その話を聞きながら、私は内心「やっぱりこの人、つまらないな」と思っていた。
結局、その日を最後に彼とは会うことはなかった。でも、彼の言葉がなぜか心に引っかかり、私は彼が教えてくれた通りに、地味な投資を始めてみた。
5年後、私は彼が教えてくれた道で自由を手に入れた
それから5年。私は35歳になった。コツコツと続けた投資信託は、気付けば予想をはるかに超える金額になっていた。地道に積み重ねた資産が、私に大きな自信と、そして自由を与えてくれた。
「…私、会社を辞めます」
35歳の誕生日に、私は上司にそう告げた。周りからは「もったいない」と言われたが、私にはもう迷いはなかった。私は、誰の評価も気にせず、自分のペースで人生を歩んでいく「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」を達成したのだ。
カフェでコーヒーを飲みながら、ふと雄太のことを思い出した。アプリで会った、冴えない男。あの頃の私が彼に求めていたのは、刺激や華やかさだった。でも、彼が私にくれたのは、そんな薄っぺらなものではなかった。地味で退屈に思えた彼の言葉こそが、私の人生を豊かにする一番の“成功”へのチケットだったのだ。私は、静かに感謝の気持ちで胸を満たした。
本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
Feature
おすすめ記事